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リクエスト⑧ 鬼の撹乱II 3
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「で?うちの大事な幹部に、ろくでもない催眠術をかけた挙句、解く方法が分からない、だと?」
見られただけで射殺されてしまいそうな、凶悪なオーラを放つ火宮の前で、夏原が身を小さくして頭を下げていた。
「申し訳ありません。ちょっとした出来心で…」
「たまたま開いたサイトの、幼児返りする催眠術を見つけて?」
「まさか本当にかかるだなんて思わなくて」
真鍋だってまったく信じずに、小馬鹿にして油断していたのに。
「ったく…。それで、もう一度開いて見たらもうそのページは消滅していて、解き方を調べる術がないだと?どうするんだ、これ」
チラッと火宮が視線を流したのは、火宮に電話で「とにかく連れて来い」と言われて、夏原がこっそりと蒼羽会会長室まで連れてきた、幼児返りした真鍋で。
その真鍋は、会長室のソファで、何やらさっきからスマホを睨んで何かやっている。
「はぁっ。漢字ドリルって…」
先ほど、火宮の名前が読めなかったことがよほど悔しかったのか。
真鍋の手元を覗けば、漢字の読みを覚えるアプリを真剣に操作している。
「さて、どうするか。これでは仕事などとても。しかも誰にもこんな真鍋の姿は見せられないぞ」
漢字が読めないのでは、書類1つ処理できない。
しかも蒼羽会の幹部が5歳児並みの精神年齢と体力、知能になったなどと知れたら、もうそれこそ大事件だ。
「夏原」
「はい」
「責任を持って、これを元に戻す方法を探して来い」
それまで真鍋は預かる、と言う火宮に、夏原は深々と頭を下げる。
「分かりました。でもその、会長」
「なんだ」
「能貴に手、出さないで下さいね?」
「はっ、おまえじゃあるまいし」
趣味じゃない、と冷淡に吐き捨てる火宮を、夏原はなおも疑わしそうに見た。
「いやでも今の能貴は本当にやばいですよ」
「興味がない」
大人の真鍋もそうだが、幼児な真鍋など余計に、火宮の範囲外だ。
「よかったです。あっ、じゃぁその…今の能貴、録画しちゃいません?」
にぃっと、悪い笑みを浮かべた夏原に、いい加減、火宮が呆れて盛大な溜息をついた。
「おまえはな…」
「後々正気に戻ったときに能貴に見せたら…。そうでなくても、俺、永久保存版にして家宝にします」
「断る」
さすがの火宮もそこまで右腕は売れない。
真鍋を庇う火宮に面白くなさそうな顔をして、夏原が未練がましく真鍋に視線を流した。
「こんなに可愛いのに」
「真鍋がおまえを精神科に行かせたがる意味がわかる。ったく、ごちゃごちゃほざいていないで、さっさと真鍋を戻す方法を探しに行け」
完全に呆れ果てた火宮が、ドスが効いた低い声を出す。
地を這うようなその声を聞き、さすがにまずいと、夏原は慌てて会長室を飛び出した。
「しかし、5歳児な…」
チラリと見たソファの真鍋は、まだまだ絶賛漢字の勉強中か。
「おい、真鍋」
「はい?」
集中を途切れさせられたか、真鍋が迷惑そうな顔をして火宮を振り返る。
「おまえ、本当に催眠なんかにかかっているのか?」
「さいみん?」
コテン、と首を傾げる真鍋は、とても演技ではありえない。
「いや、何でもない。くそっ、調子が狂う」
純粋な、澄んだ目をしている真鍋に、さすがの火宮も言葉に詰まる。
「あの、えっと、会長さん?おつかれですか?」
ふと、スマホをポケットにしまった真鍋が、心配そうにソファから立ち上がった。
「あたたかいお茶でもいれましょうか」
ぼく上手いですよ、と微笑む真鍋に、火宮が小さく苦笑を浮かべた。
「本質は真鍋なんだな」
「え?」
「おまえ、俺のことも分からないのだろう?」
夏原もおじさん呼ばわりだしな、と笑う火宮に、真鍋が困ったように小さく微笑んだ。
「ごめんなさい」
「いや、責めてはいない。ただ、それなのに俺を気遣い、自身のことよりも俺を先行させるのか、と思っただけだ」
幼くなっても火宮が最優先の真鍋なのは変わらないのか。
「ぼくは…」
「うん?」
「ぼくは、あなたが、ぼくの1番大事な人だっておじさんに聞いて。でもそれだけじゃなくて。ぼくもなんか、あなたのことを…上手くいえないんだけど、とても大事なものに、かんじます」
「そうか」
緩やかに頷いた火宮が、幼いなりに必死に話す真鍋に、優しく目を細めた。
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