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リクエスト⑧ 鬼の撹乱II 4
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「はぁっ…。見つかりませんでした…」
項垂れて会長室に戻ってきた夏原を、火宮の冷ややかな目が射抜いた。
「見つからなかった、で帰ってくるとは、おまえ、いい度胸をしているな」
普通は命令不履行のまま顔は出せない、と怖いオーラを放つ火宮に、夏原が乾いた笑いを浮かべた。
「だってもうどんな文献を調べても、どんなサイトを見ても、専門家にまで話を聞いても、そんな催眠術はない、が答えですもん。お手上げです」
「それで」
おまえはとりあえず海に沈めて、真鍋はどうする、と睨みを向ける火宮に、夏原の眉がヘニャリと下がった。
「あー、もう、いっそそのままでよくないですか?能貴、可愛いし。俺、能貴1人くらい、余裕で養いますよ」
いやいっそ飼育する、と笑う夏原は、調べもののし過ぎで、完全に変なテンションになっている。
「おまえは…」
なんて無責任な、と呆れかけた火宮の前に、むにゃむにゃと目をこすりながら起き上がった真鍋が顔を見せた。
いつの間にやら、ソファで無防備に居眠りをしてしまっていた真鍋だ。
「会長さん、まほうのときかたを知りたいんですか?」
「は?魔法?」
これはまた、真鍋の口から出るにはあまりにも似合わない、やけにファンタジーな単語だな、と火宮が顔を引きつらせてている。
「そうです。さいみんじゅつって、まほうでしょ?悪いまじょにかけられたのろいを解くにはね」
悪い魔女…と、真鍋に不似合いな単語を繰り返しながら夏原をチラリと見た火宮は、その目の先で、夏原がにぃっと悪い笑みを浮かべたのを見た。
「王子様のキス!」
俺、俺。俺やる!と手を上げている夏原に、真鍋の目がゆっくりと巡らされた。
「ふっ、馬鹿な。呪いを解くには、その悪い魔女を、殺してしまうことです」
ニッコリと、綺麗な綺麗な笑みを浮かべた真鍋が、スゥッ、とボールペンを1本取り出して、夏原の眉間にピタリと真っ直ぐその先を向けた。
「え…?能貴?」
「真鍋?」
呆然と開いていく夏原の目と、怪訝な顔で真鍋に移る火宮の目が、真鍋の鮮やかな微笑みを映していた。
「ご安心を。一撃で仕留めます」
苦しませはしませんよ、と笑う真鍋に、夏原が唇を震わせた。
「っー!能貴!」
「なんだ真鍋。戻っていたのか」
通常運転、冷酷非情、辛辣な真鍋を目の前に、夏原と火宮がそれぞれの反応を浮かべていた。
「能貴ーっ。俺、あのまま戻らなかったら、本当、どうしようかと」
心配した、と抱きつこうとした夏原を、真鍋はスルリと華麗に避けてしまう。
「嘘おっしゃい。犯罪とも構わず幼児に手を出そうとした変態が」
「能貴、記憶が?」
「さぁどうでしょうね」
「ククッ、やっぱりこれでこそ真鍋だな」
「会長、この度は大変なご心配とご迷惑をおかけしまして」
「ふっ、構わん。だがいつ戻った」
「転寝をして起きたらこのように」
原理は分からないが、どうやら真鍋は無事に元の年齢に戻れたようで。
「じゃぁまさか、最後のは演技?」
「ふっ」
「うわ…」
俳優になれる、と呟いている夏原が、まんまと騙されたことに悔しそうに顔を歪めている。
「まぁよかったじゃないか」
海に沈まずに済んで、と笑う火宮はどこまで本気か。
「私はぜひ身罷っていただきたいのですけれどね」
「本当、クール。幼児能貴も良かったけど、やっぱり能貴はこうでなくっちゃね」
「………」
「能貴、やっぱり俺と付き合って」
「お断りします」
即答と鮮やかな笑み。
このタイミングで口説ける夏原も、やっぱりどこまでも夏原で。
「通算219回目」
お馴染みとなった夏原のフラれ回数カウントに、日常が戻って来たことを実感する、3人だった。
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