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リクエスト⑨ コスプレ2
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「っ!」
見覚えのあるその高級車に、思わず、裏切ったな?と浜崎を見てしまう。
「ひぃぃ、だって…すんませんっ」
他にどうすることも出来なかった、と肩を竦める浜崎を見て、溜息が出る。
その後ろの方に、カツンと革靴の足を車から下ろして、ゆっくりと車外に出てきた、ブラックスーツの男が見えた。
「真鍋さん…」
その人が降りてきたのが助手席からだったから、後部座席にはそれよりも地位の高い人…つまりは火宮しかいないだろう、その人が、乗っているということを示唆している。しかも。
「池田さん…?」
後ろの車からは何故か、やっぱり黒いスーツに身を包んだ池田が、カツンと路上に降り立った。
「っ…」
「お迎えに上がりました、翼さん」
「呼んでないですっ…」
きゅっ、と手の中のダンボール箱を抱え直して、目の前まで来た真鍋を睨む。
「お迎えに、上がりました。そちらを寄越して下さい」
「嫌ですっ…」
「池田」
「はい」
あっ…。
真鍋に抵抗しようとしっかり抱えたダンボール箱は、横から不意にやってきた池田に、ヒョイッと奪われてしまった。
「返して下さっ…」
「翼さん。3度目です、お迎えに上がりました」
お車にお乗りください。
スッと差し出されたエスコートの手を、俺はパンッ、と払いのけ、ギッと真鍋を睨み付けた。
「文句がおありでしたら、中でどうぞ」
お聞きしますよ、と開けられた車の後部座席のドア。その車内のシートには。
「ククッ、翼。家出する予定だったって?」
ゆったりと足を組み、愉しげに喉を鳴らした火宮が座っていた。
「まぁ乗れ」
「っ…」
言いながら、すでに中から手を伸ばして引っ張っている。
「っぁ…」
「真鍋。池田に伝えろ。あれは、きちんと処理しておけよ、と」
「かしこまりました」
「っ、火宮さんっ!」
あれって言うのは、もしかして子猫のこと?
「そんなっ…」
「こら、暴れるな」
「嫌っ!だって…離してっ…」
「このじゃじゃ馬が。閉めろ、真鍋。出せ」
ぎゅっと火宮に抱き締められた身体が座席に沈み、ドアが外から閉じられる。
それを待つか待たぬかのうちに、車はブォーンと走り出してしまった。
「っ…」
ベタン、と張り付いた窓の外には、濃いスモーク越しに、丁寧に頭を下げた真鍋が見える。箱を抱えた池田と、困ったように眉を下げている浜崎も見えて、俺は遠ざかっていくその姿に、悔しさからダンッ、と窓を拳で叩いた。
「防弾ガラスだ。おまえの手の骨が負ける」
「知りませんっ…砕ければいいんだ、こんな手なんて」
子猫の命を救えなかった、無力な手など。
「馬鹿を言うな」
「っ、馬鹿はどっちですか。バカ火宮っ。薄情者っ。冷血っ、鬼…」
確かに縁もゆかりもない子猫だけど。
もう少し考慮の余地があってもいいじゃないか。
「クッ、言うな」
「だって…」
「まぁそう拗ねるな。その子猫だって…」
ポンポンと宥めるように頭に乗ってきた火宮の手にすら、今の俺は苛立つことしか出来なくて。
ムカっとなった勢いのまま、思わず手を振り払った、それが。
「っあ…」
「クッ…」
やば…。
さすがに咄嗟に仰け反ってくれたものの、狭い車内で至近距離。いくら反射神経のいい火宮でも、俺の手を避けきれなかったらしく、ピッと指先が美貌の頬を掠めてしまった。
綺麗な肌に、一筋の赤い線がつく。
薄く滲んだ血は、切るのを不精していた俺の爪が傷つけてしまったものだ。
「あ、ぁ…」
そんなつもりじゃなかった…。
「ごめっ…」
さすがにやり過ぎた。
ゆらりとブレた運転を感じ、バックミラーに映る運転手の顔が青褪めていた。
「ククッ、やってくれる」
「ごめっ、なさ…俺」
小さく震えた手は、火宮を傷つけてしまったことへの後悔からで。
「ふっ、俺を傷モノにしたか」
「っ…」
「おまえ以外なら、今ごろ命はない」
ニヤリと笑うこの男は、ヤクザの組の最高幹部様で。
「ククッ、翼。おまえだから許される。けれど、ただでとはさすがにいくまい」
さらに深く唇の端を吊り上げた火宮の顔が、妖しく艶やかな光を放つ。
「仕置きだ、翼。数々の暴言も含めて。恋人の顔に傷を負わせた罪は重いぞ」
ニヤリと笑った火宮が宣言した瞬間。
スゥッとゆっくり停車した車は、ちょうどマンションの前に着いていた。
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