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リクエスト⑨ コスプレ7
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ふと、インターフォンの音が、遠くで聞こえた気がした。
「んっ…」
まだ眠りにしがみつきたい俺と、覚醒しようとする意識がせめぎ合う。
「あぁ、真鍋か。入れ、上がって来い」
低く艶のある低音は、俺の大好きな火宮の声だ。
んー、真鍋さんか…。
「っ?!真鍋さんっ?」
はっ、と覚醒した俺が、ガバッとソファの上に起き上がったのと、ガチャッとリビングのドアが開いたのは同時だった。
「………はぁっ」
「っーー!」
その呆れ果てた白い目…。
ハラリと捲れた毛布が、床に落ちる。
「やっ、見ないでっ…」
チリン、と鳴った鈴の音が、俺がまだどんな格好をしているのかを教えている。
「クックックッ、どうした?真鍋」
「はぁっ。相変わらずお戯れが過ぎるようで」
このバカップルが、と突き刺さる冷たい視線が痛い。
「羨ましいだろう?」
バカはそこでニヤニヤと自慢げに頬を緩めている人だけだから!
俺はとにかく、落ちてしまった毛布を急いで拾い上げ、くるっとそれを身体に巻きつけた。
「もっ、やだ…」
寝ちゃった俺も悪いけどさ。
毛布をかけてくれる優しさがあるなら、このコスプレを解除してくれる方が先じゃない?
プラグも首輪もリストバンドもそのままって。多分どうせ頭についた猫耳もそのままなんでしょ?
そっと頭に手を伸ばしたら、やっぱりというかなんというか。
ゴソッと触れる髪の毛とは違う毛の感触がした。
「クックックッ、それで?真鍋。報告に来たんだろう?」
「そうですね。そちらへ行っても?」
「構わない」
リビングの入り口で止まっていた真鍋が、俺のいるソファの方へと歩いて来た。
インターフォンの受話器のところに立っていた火宮も、ゆったりと俺の側まで来る。
「っ…仕事なら俺、向こうで着替えて…」
とりあえずこの場から逃げようと、寝室のドアをチラリと見た俺は、火宮の手にガシッと捕まった。
「おまえに報告だ。退座してどうする」
「え?俺にって…」
首を傾げた俺の前のテーブルに、スッと差し出された写真があった。
「え…これは」
「うちの組の者の家族です。猫好きの一家がおりまして」
可愛い女の子と優しそうな女性。
2人の間に、大事そうに抱っこされた子猫が写っている。
「この子…昼間の?」
あの捨て猫か。
確かにこんな色と模様をしていた。
「はい」
「っ!なんで…?」
思わず火宮を振り仰いだら、薄く目を眇めて俺を見ていた。
「何がだ」
「だって、処分しろって…」
真鍋に命じて池田に言わせたはず。
「処分?俺は処理しろ、と言ったんだぞ」
「え…」
じゃぁもしかして、殺されてしまうと思ったのは、俺の思い込み…?
「はい。ですので、きちんと、里親を探し、大切に育てていただけるよう交渉し、処理いたしました」
「っ…それじゃぁ」
「きっと新しい住処で、可愛がってもらえるでしょう」
っ!
なんだ。よかった。
ちゃんとそんな手配をしてくれたんだ。
しかも昼間の今で、こんな迅速に。
「ククッ、仕方あるまい。うちはペット禁止のマンションだからな。うちでは飼ってやれないものを、拾わせるわけにもいかない」
「ぁ…」
そうだったのか…。
「だからといって、1度言い出したら聞かないおまえのことだ。こうでもしないと納得しないだろう?」
確かに、あのままあの子が野垂れ死んでしまったり、殺処分されたりなんかした日には、きっとずっと火宮に恨み言を言い続けるだろう。
「ありがとうございます…」
あれ?
でもちょっと待てよ?
じゃぁ俺は何であんなに必死で駄々を捏ねて、挙句にこんな目に…?
「ときに会長、そのお貌のお傷は」
「あぁ、これか?反抗期らしいやんちゃな子猫に、少々引っ掻かれてな」
クックッと喉を鳴らしている火宮はとても楽しそうで。
けれどもその側近様は、仇のように俺のことを睨んで下さった。
「おまえか」と冷たく射るような視線に、心臓がきゅぅ、と縮み上がる。
「もっ、もう、嫌ってほどお仕置きされましたからねっ!」
というか、現在進行形ですから。
だって俺ってばまだ、しっかり猫仕様のままだし。
だからこれ以上、真鍋からも叱られるとか、絶対ナシだ。
「会長?」
「ククッ、そういうことだ」
「はぁっ…分かりました」
ニヤリと笑った火宮に、やけにあっさりと真鍋が引いた。
「おっ?」
よかった。
けど、拍子抜け。意外すぎ。
「まったく。本当はきちんとお避けになれるくせに…」
ん?
今、なんて…?
「クックックッ」
待って。
えっと?
その笑いの意味は?
「まさか…」
「せっかくだ。猫の姿、記念に撮っておくか?」
このどS。
バカ火宮。
仕組んだな?
「嫌に決まってますっ!」
「そうか。可愛いのに残念だ」
本当、なんなの。
意地悪で、どうしようもない。
だけど。
「傷…つけちゃったのは事実だし」
しょうがないか。
それが罠でもわざとでも。
「大好きにゃ、ご主人様」
ぐっと伸び上がって頬に唇を寄せて。
ペロリと傷を舐めてやる。
「ククッ、見るな、真鍋。減る」
「はぁぁぁぁっ」
盛大な溜息に重なって、チリンと涼しげな鈴の音が、リビングに響き渡った。
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