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リクエスト⑩ 吸血鬼 1
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【本編297話、執筆後】
yato様よりリクエスト《ハロウィンという事で吸血鬼の火宮さんが見たいです》のお話です。
吸血鬼に関しての設定は、作者の勝手な想像です。またパラレルワールドとなっております。ご了承ください。
もう少しコメディタッチになるかと思いましたが、なにやらやけに切なく仕上がってしまいました^^;
よろしければお楽しみ下さい。
※R18ご注意下さい。
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昼間の仕事を終え、ようやくマンションに帰って来た。
セキュリティを解除して入った室内から、調理をしているらしいいい匂いが漂ってくる。
「あっ、火宮さん?お帰りなさいー」
玄関の開閉音に気がついたのか、おたまを手にした翼が、パタパタと廊下に走り出てきた。
「ククッ、その顔。ついているぞ」
「えっ?」
今日の夕食は何なのか、小麦粉らしい白い粉を頬につけた翼が、ワタワタと慌てている。
「えっ、やっ。どこですか?ここっ?」
服の袖でゴシゴシと頬を擦っている姿が可愛い。
俺にとって人間と同じ食事は、腹の足しにはなっても、栄養にはならないから無駄だと言っているのに、「お腹がいっぱいになるならいいじゃないですか」と、料理を作ることをやめない頑固な恋人は、今日も絶賛料理を作ってくれたらしい。
夜の闇の中、俺が見つけた、最愛の人。
あの日、仕事帰りにふらりと散歩をしていた俺は、甘い甘い、むせ返るような甘い匂いに誘われて、とあるビルの屋上に上っていた。
ぶわっと湧き立つ甘い香りの発信源が、どこだと確かめる間もあればこそ。
翼も持たぬただの人が、夜空に飛び出そうと、まさに地を蹴ったその瞬間だった。
「捨てるんなら、寄越せ」
消えゆく命を繋ぎとめ、思わず引き留めたその一瞬は、ただ都合のいい食料が手に入ったとしか思わなかった。
甘く美味そうな血の匂い。
無駄に夜闇に散らすなら、俺の糧にしてやろうと、ただそう考えた。
「えっ?吸血鬼なんですか?そっかー、どうりで美形だと」
俺が闇に生きる人外のモノだと知っても、翼は真っ直ぐに俺を見た。
畏れも怯みもしない目で。
そんな強くしなやかな心を持つ翼に惹かれるのに、時間はかからなかった。
「火宮さん?」
ついぼんやりと回想に耽ってしまっていたら、下からひょこっと翼の顔が覗いた。
「いや…」
「それでは刃様、私はこれで」
後ろで、ここまで送りに来ていた真鍋が、静かに頭を下げた。
「あっ、真鍋さん、お時間ありましたら、一緒に夕食どうですか?」
たくさん作りましたよ、と笑う翼に、真鍋が困惑したのが分かった。
この真鍋も、俺と同じ吸血鬼という生き物で、俺の従者だ。
吸血族の社会は、血統重視の階級社会。個の身分がはっきりしていて、俺は王族の血を引く貴族だ。その中でも1番強い、王者の血を持つ者。
だからやれ王としての務めを果たせだ、血を絶やさぬために妻を娶って子を成せだ。
吸血鬼社会にいたら、うるさくてかなわなかった。
嫌気がさした俺は護衛や目付役たちの目をかいくぐり、ふらりと人間社会に逃げてきた。
その際、ただ1人、その目を誤魔化しきれずについてきてしまったのがこの真鍋だ。
てっきり俺を連れ戻しに来たのかと思っていたら、この真鍋、何を思ったか、自分も人間社会に落ち着いて、俺の監視役兼世話係として、俺の側に居ついてしまった。
正体を隠して人間社会での仕事を始めた俺にも、何を言うでもなく、黙って秘書として働き始め、今ではもう真鍋はなくてはならない存在になっている。
だから真鍋にも、当然人間の食事は意味がない。
「いえ、私は…」
「そうですか?珍しく味付けが上手くいったのになぁ」
ブツブツと呟いている翼は、どうやら今日の料理はよっぽどの自信作らしい。
「クッ、俺が倍食べてやる」
「えー?食べ過ぎると太りますよ」
せっかくのスタイルが、と笑う翼の、こういうところがたまらない。
「だから俺は人ではないと」
いくら人間の食事を取ろうとも、それが身になることはないと何度教えたか。
「あ、そうでした。だって人間と何も変わらないんですもん」
ただ自然体の翼が、本当に眩しい。
「ククッ、牙があるぞ?」
「えー、でも普段はしまってるじゃないですか」
「まぁな」
「別にニンニクも十字架も平気だし、太陽だって苦手っていうだけで、別に溶けちゃったりしないですし」
一体何の知識なのか、初めの頃の翼は、いちいちわけのわからない心配をしてくれていたか。
「ふっ、本当におまえは、愛しいよ」
この俺が、まさか人間風情に心を奪われる日が来ようとはな。
まったくの想定外だ。けれど悪くない。
「では刃様、翼様、失礼いたします」
「あぁ、ご苦労」
「真鍋さん、またです」
にこっと真鍋にも分け隔てなく笑顔を向ける翼には少し妬ける。
「ほら翼、上手く出来たんだろう?早く食事にするぞ」
「ちょっ、分かりましたから、押さないで下さいって…」
んもぅ、と頬を膨らませながらも、今日は肉じゃがが上手くいっただことの、味噌汁が美味しく出来ただことの、目を輝かせて一生懸命報告してくれる翼が、愛しくてたまらなかった。
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