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リクエスト⑪ 記憶喪失 1
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【本編301話、執筆後】
aya様よりリクエスト《翼が記憶喪失になって火宮さんたちと出会う前の記憶しかなかったらのお話》です。
「翼に今と同じように火宮さんはお仕置きするんですかね?気になりますね(笑)」
ということで、記憶がない翼にお仕置きするかどうかは、お話の中で♡
とりあえず前編です。
後編はまた後ほど。
よろしければお楽しみください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピピピッという目覚ましの音が鳴り響き、パタパタとその発信源を探った手がスマホに触れた。
「うぅ、もう朝か…」
起きたくない。
でも起きないとバイトに遅刻する。
ふぁぁっ、と欠伸を漏らしながら、俺は渋々目を開けて身体を起こした。
キシッ、とベッドのスプリングが音を立てる。
「んーっ…」
今日はようやく給料日だな、なんて思いながら、ベッドから抜け出そうとした瞬間。
「え?ベッド?あれ?……ここどこ」
ぐるりと周囲を見回した目が、見慣れない景色を捉えて固まった。
「は?え?ちょっと待って…」
うちのものではない部屋、布団で寝ていたはずの俺が、何故かベッド、着ている部屋着まで見慣れないもの。
これは一体どういう現象だ。
「まさか、寝ている間に誘拐された?」
それにしては監禁されているわけでも、拘束されているわけでもないけれど。
「そもそもうちは金持ちどころか借金まみれだし、俺なんか誘拐したってなんのメリットも…ってそうだ、母さんは?父さん?」
俺がわけのわからない場所にいるってことは、2人はどうしたんだろう。
慌ててベッドから飛び降りて、とりあえず唯一見えるドアに飛びついてそれを開けたら、驚くほど広いリビングダイニングキッチンがドーンと広がっていた。
「は?え?」
ますます状況が理解できなくなる。
「どんな金持ちの家…?」
これは身代金目的の誘拐の線は消えた。
ここは、どう見ても金に不自由していないだろう人間が住んでいる、超リッチなマンションの一室だ。
「え、ってことは、もしかして、目的はソッチとか?」
そりゃ、両親の借金を知って以来、取り立てにくる怖いお兄さんたちに、俺を売れば大層の金になるとかなんとか、何度かいやらしい目つきで見られはしたけど。
「まさか俺、借金取りのお兄さんたちに誘拐されて、売られちゃった、とか…ないよね?」
怖い、怖い、怖い。
とにかくここがどこでも、まず逃げ出さなくては。
ハッ、と危機感を感じた俺は、多分リビングの出口であろうドアに走り、廊下に飛び出した。
「ビンゴ」
駆け出した廊下の先には玄関がある。
不思議なことに、俺の足のサイズぴったりの、高そうなスニーカーがあって、俺はラッキーとそれを履いて外に飛び出した。
「うっわ、ワンフロア全部この部屋だけとか」
やっぱり金持ちの家だ、と思いながら、エレベーターを見つけて駆け寄る。
「え…?何これ…動かせない」
ボタンを押そうにも、変な機械が横にくっついていて、それをどうにかしないとどうやら作動しないらしい。
「これって、指紋認証とかいうやつ…?」
何かのテレビ番組で見たことがあるような気がする。
これはますます、一体どんなVIPが住んでいる家だ。
「やっぱり俺、金持ちの変態に買われちゃったの…?」
ゾクッと寒気がして、俺は慌てて今度は非常階段を探すことにした。
その時。
パッ、とエレベーターの階数表示が変わって、エレベーターが上昇してきたのが分かった。
「っ…」
ポン、と微かな到着音がして、エレベーターの扉が左右に開いていく。
中から現れるのは敵か味方か。
ドキドキとする心臓を落ち着けながら、身構えた、その時。
「っ?!ふ、翼さんっ?」
「っ…敵」
開いた扉の向こうから出てきたのは、同世代くらいの若い男だ。驚きに目を丸くしている顔は強面ではないけれど、醸し出す雰囲気は一般人のものとはどこか違う。やっぱりヤのつく自由業の人だ。
「くそっ…」
捕まってたまるかと、俺は固まっているその人の横をサッとすり抜けてエレベーターの扉に飛びつく。
これさえ使えれば…とボタンに伸ばした手は、パシッとその男の人の手に捕まってしまった。
「ちょ、ちょ、ちょ、翼さんっ、何してんっすか」
「やっ、離してっ…」
「あ、や、すんません。ですが…」
ワタワタと慌てながら、けれどもエレベーターの扉が閉まってしまうまでは手を離してくれなかった男が俺を見る。
スゥッ、と閉まってしまった扉が見えて、俺は悔しさから、ガックリとその場に膝をついた。
「くっ、ふっ、どうして…」
せっかくの逃げ出すチャンスだと思ったのに。
やっぱり俺はこのまま、ここに軟禁されて好き放題されてしまう運命なのか。
ギリッと噛み締めた唇が痛んで、ジワリと鉄臭さが口の中に広がった。
「あの、翼さん…?」
恐る恐る、と、俺を捕まえた男が俺を呼んだ。
「名前…」
知ってるんだなー、なんて、どこか痺れた頭の片隅で思う。
「あの…一体どうしたんすか?」
どうしてこの人は、そんな心配そうな目をして俺を見るんだろう。
困惑に揺れる声が不思議だ。
ゆるりと見上げた男が、俺を助け起こそうと手を出している。
「翼さん?…えっと、とりあえず部屋に戻りません?こんなところを見つかったら、翼さんまた会長に…」
「会長?」
俺を買い取った人は、会長さんっていうのか。
きっと相当好き者のじいさんなんだな。
はぁっ、と落ちた溜息に重なって、「え?」と驚いたような男の声が聞こえた。
「なんですか」
「いや、翼さん?あの、会長って、会長なんすけど」
何故に疑問調?と言われても。
「だから会長って、なんかとっても偉くって、重職から隠居したじいさんとか、そんな感じなんでしょう?」
元社長とかなんかそういう。
俺の知識はせいぜいそんなものなんだけど。
「はぃぃ?」
「なんですか…」
この人、リアクションがいちいちウザいんだけど。
裏返った声と丸くなった目が、なんだかヤのつく職業の方からかけ離れている。
「いやいやいや、翼さん?何をぶっとぼけたことをおっしゃってるんっすか?」
「とぼけたこと?」
「え?いや、だから、会長は会長っすよ?火宮会長」
火宮だかなんだか知らないけど、だから何が言いたいのだ。
要領を得ない発言に苛々する。
「その火宮会長さんとやらがなんなんですか。俺が何をとぼけているって…」
「えぇっ?ちょ、マジっすか?それ、マジで言ってます?」
だから、何が!
ウザい。この会話がウザすぎる。
思わず胡乱な目で男の人を見つめてしまったら、何故かその人は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「あぁぁぁっ、翼さんが壊れた…」
「………」
壊れているのはあなたでしょう、と言いたい口は、かろうじてすんでのところで止まった。
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