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リクエスト⑪ 記憶喪失 4
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「教えない」
ジーン、と腰にくるような、穏やかな低い美声が響いた。
それは意地悪からではなく、その関係性を覚えていない俺に対して、言葉だけの真実は無意味だとでも言うように。
そしてその答えを、俺自身に見つけさせることが、火宮の意地だとでも言うように。
「教えない」
だから自分で見つけろと、自信満々に微笑む火宮に、ドクンッと鼓動が脈打った。
「っ…」
でもだってこの人、男だし。
そりゃ、かなりのイケメンだけど、俺だって一応男で、女の子が好きなわけだし。
「ククッ、柔軟で強かなくせに、変なところでは常識に捉われるんだよな、おまえは」
愉しげに喉を鳴らす火宮は、俺が忘れた俺の数ヶ月間の俺を知っているわけで。
「な、なんかヤラシー」
わけもなく恥ずかしくなって、スッと視線を逸らしたら、クックッと可笑しそうな笑い声が聞こえた。
「会長、そろそろ」
後ろで黙って俺たちのやり取りを見ていた美形が、そっと口を挟んで来た。
「あぁ、そうだな。………」
な、なに?
じっと向けられる視線が痛い。
「会長」
「分かっている」
しつこく突き刺さるその視線の意味は何だろう。
「会長」
「………真鍋」
「はぁぁぁっ…」
な、なに?
火宮に穴が空くほど見つめられていたかと思えば、次には美形の派手な溜息って…。
「お仕事ですよ?」
「分かっている。だが」
「はぁっ。絶対に邪魔をさせないでいただけますね?」
「約束させる」
「でしたら譲歩いたしましょう」
なんだろ。
2人の視線が俺に向いているけど。
「よかったな、翼。おまえも連れて行ってやる」
「へっ?」
「ここに1人で残るよりいいだろう?」
えっと、つまりは心配だから、俺も仕事場に来いってこと?
「ヤクザの仕事場?」
それはあまり好き好んで行きたい場所じゃないな。
「翼さんっ!」
「あ…」
「ククッ、やっぱり暴言も標準装備か」
記憶がなくても変わらない、と穏やかに笑う火宮なんだけど、その目だけが、なんだか意地悪そうに弧を描いていて。
「火宮さんて…」
Sっぽい、とはさすがに本人に言えないことを、うっかり内心に思い浮かべる。
「クックックッ、以前のおまえは、堂々と俺をどSだ、バカ火宮だと罵っていたぞ?」
「は?え?」
なに?エスパー?
なんで考えていることがバレたんだろう。しかも俺って、歳上で、ヤクザの会長とかいうすごい人に対して、一体どんな無礼なやつだったわけ?
タラーッと背中を伝った汗が冷たい。
「ふっ、仕置きだ、翼」
「え?仕置きって、え…?」
待って!何これ!
き、き、キスぅ?!
チュッ、と唇が火宮のそれで塞がれたかと思ったら、ニュルッと中に入ってきたのは火宮の舌で。
歯列をなぞり、舌を絡めとり、好き勝手に口内を暴れ回る舌に、俺はパニック寸前だった。
「ぷはっ…なっ、なっ、なっ…」
俺のファーストキス!
力の抜けそうな身体を踏み止まらせて、目の前の火宮を睨む。
「だから、目くらい閉じろ、ガキ」
ニヤリと意地悪く吊り上がった火宮の唇が、意地悪な台詞を吐いた。
っ…?
なにかの光景が、それに重なりブレるように滲む。
「あ、れ…?」
それは一瞬で掻き消えて、目の前には人の悪い笑みを浮かべた火宮が俺を見ている。
「さて、いい加減に事務所に戻るか」
スッと差し出された手は、取れってことだろう。
「っ!」
火宮の手に、手のひらを重ねた瞬間、静電気が走ったように、チリリと小さな痺れが、指先に伝わった気がした。
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