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リクエスト12 暴走子羊と意地悪狼 3〜case夏原
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「クスクス、うちにこんな可愛い子が下僕としていてくれるっていうだけで、仕事がはかどっちゃいそう」
楽しいな、と笑う夏原に、俺は今日1日、一体どんな無茶な要求をされるのかとドキドキだ。
「ふふ、とりあえず、コーヒーでも淹れてきてもらえるかな」
場所と淹れ方は事務所の女の子に聞いて、と言いながら、執務机の上の書類を仕分け始める夏原を、ぼんやりと見つめてしまう。
こうして法律事務所にいる、ということは、本当にこの人は弁護士なんだろうし、ピシリと決めたスリピースのスーツ姿は、本当デキる法律家に見えるは見えるけれど。
「どうしても、真鍋さんの追っかけをしている時の印象がね」
そちらが強すぎて、いまいち弁護士モードのこの人というのがしっくり来ない。
「ん?どうかした?火宮翼くん」
俺はコーヒーを淹れて来いって言ったんだよ?と言わんばかりに、コンコンと机を叩いた夏原に、俺はギクリとしながら、慌てて夏原の執務室を飛び出した。
「うん、美味しい。火宮翼くんは飲まないの?」
コトンと置いたマグカップをさっそく口に運んで、夏原がニコリと笑った。
「え?いえ、俺は」
「そ?それじゃ、早速この書類の整理でもしてもらおうかな」
はい、と渡されたのは、ドサッと大量の紙類で。
「ここにナンバーが打ってあるから、この番号順に、こっちのファイルに入れていってくれる?」
「はい」
中身はジロジロ読んじゃ駄目だよ、と笑う夏原だが、見たところで細かい文字で小難しそうなことがギッシリと書かれている書類は、そもそも意味不明だ。
俺は、使っていいと言われたデスクについて、さっそくパラパラと書類の整理を始めた。
チラリと見た夏原は、自分の机でカタカタとキーボードを叩いている。
時折、クイッと眼鏡を人差し指で上げる仕草が、なんか格好いい。
「何?」
「え、あ…」
パソコンの画面と手元の書類を往復していた夏原の目が、不意にこちらに向けられた。
「クスクス、もう終わったの?じゃぁこれもお願い」
ドサァッ、と、さらに山積みにされた書類に、ヒクッと頬が引き攣る。
「ふふ、会長以外の男に見惚れていちゃ駄目じゃない」
まぁ俺、格好いいけどね、と悪びれなくのたまわる夏原は、さすがというかなんというか。
「別に俺はっ…」
「クスクス、しかも能貴を襲うなんてとんでもない。今日はたーっぷり苛め抜いてあげるからね」
パチッとキザったらしくウインクをしてくる夏原の、眼鏡の奥の瞳が、キラリと意地悪く光っていた。
その後も、やれさらに追加の書類の整理だとか、なんだかよくわからない資料の整頓だとか。
要は雑用に散々こき使われ、バンバン仕事を片付けていく夏原の横で、俺はヘロヘロになりながら、与えられる雑務をこなしていた。
途中何度か、依頼人と面談だとかで別室に行く夏原を見送り、お茶出ししろという命令に従い…。
「はぁぁっ、疲れたぁ。お腹空いたー」
気づけばもう12時過ぎ。
昼ご飯はまだだろうか。
チラリと見上げた事務所の時計に、お腹がグゥと切ない音を立てた。
「夏原さんはまだ依頼人とかいう人とお話し中だしー」
勝手に休憩を取るわけにもいかず、俺はポツンと、執務室内で時間を潰していた。
それからどれくらいの時間が過ぎたか。
時計の長針が一周した頃、ようやく夏原が別室から戻ってきた。
「ごめんごめん、火宮翼くん。待たせたね」
「あ、夏原さん」
「お昼まだでしょ?大分お昼の時間が過ぎちゃったけど。ご飯にしようか」
ドサッと分厚いファイルを机に置いた夏原が、振り返ってニコリと笑った。
「ランチに行こう。奢るよ」
鞄から革財布を持ち出して、胸ポケットにしまった夏原が笑う。
「え、あの…」
俺は今日、罰でここに来ていて、あなたに絶対服従の下僕なわけで…。
オロオロと戸惑ってしまった俺に、夏原の鮮やかな笑みが向いた。
「だから、絶対服従でしょ?俺がお昼行こう、って言っているんだから、火宮翼くんは黙って従わないと駄目なんだよ」
クスクス笑う夏原に、俺は曖昧な笑みを浮かべてしまった。
これじゃぁ罰って言うか…。
ご褒美みたいなんだけど。
「返事は?」
「はい」
コクン、と頷くしかなかった俺に、夏原は、「よろしい」と笑って、スタスタと執務室の出入り口に向かった。
それから、本当にごくごく普通にランチを奢ってもらって、事務所に戻って来て、午後。またも大量の事務仕事の雑用に使われて。
けれどちゃっかり3時のお茶の時間には、ケーキなんてリッチなおやつをご馳走になってしまった。
そうして夕方。
「ふぅ。お疲れ、火宮翼くん」
「お疲れ様です」
仕事にひと段落ついたらしい夏原が、ニコリと笑ってパソコン画面から顔を上げた。
「そろそろ迎えが来る時間だよね」
「あー、そうですね」
フラリと見上げた事務所の時計は、5時過ぎを指していた。
「ふふ、どう?疲れた?」
「え?あ、まぁ…」
本当1日、これでもかというほど、雑用にこき使われた。
けれど、それだけじゃなくて、甘い水も大分啜ったんだよね。
「クスクス、どうしたの?なんか腑に落ちない顔」
「あー?えぇっと、まぁ、なんか、夏原さんって、結局優しいっていうか、甘い?」
これがお仕置きなんだったら、大分軽くてラッキーなんだけど。
「ふふ、きみは本当に、火宮会長色に染まり過ぎだよね」
「え?」
ポツリと呟いた夏原の声は、小さすぎて何を言ったか聞き取れなかった。
『ま、それに気づかせるのも、会長のこのお仕置きの狙いか』
「夏原さん?」
「ううん、なんでもない。じゃぁまぁ、今日はご苦労様。また事務所とかで会ったらよろしくー」
外まで送るよ、と席を立つ夏原の綺麗な笑みに、俺は曖昧に微笑んだ。
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