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修平は窓に近づいた。窓は木枠の磨りガラスで重い。
ギシギシいわせながら開けると、気持ちのいい風が部屋に入ってきた。
「うわっ!」
窓の外はすぐ目の前まで、桜の枝が広がっていた。
鼻先で蕾がうす紅を匂い立たせている。
「これ・・・。春は絶景だけど・・・。葉が出たら何にも見えないな・・・。」
空気を入れ替えるつもりで、窓をあけたまま、修平は部屋を出て階下に降りてみた。
階段の裏側にまわると、陰気な台所がある。
が、男所帯の共同台所の割には、綺麗に片付けられている。
その先へ行くとドアがふたつ並んでおり、貼り紙に漫画風の絵で
風呂とトイレであることが表してある。
修平は風呂場を覗いてみた。
「ふ・・・ん。思ったよりきれい・・・かな。」
そのころ。
主のいない10号室。
あいたままの窓からそよそよと風が吹き込んでいる。桜の枝が音もなく揺れる。
ふと、窓枠に影がさした。
修平が風呂場から出てくると、台所に学生がひとり立っている。
「あっ・・・、こんちわ」
修平が声をかけると、相手はちら、とこちらを見て黙って会釈した。
神経質そうな色白の男で、黒縁のメガネをかけている。
「新入生の泉修平です。今日から」修平は二階をみあげた。
「10号室に。」
相手はたいして興味もない、といった顔で
「あ、そう、よろしく。」と返した。
「よろしくお願いします。」
「何科?」
「油です。」
「ああ、そう」
そのまま行こうとする黒縁メガネに、修平は思わず
「え・・・と??」といいながら指をさし、あわててその指をひっこめた。
「?あ、ああ、僕?・・・日本画。日本画の三回生。本田です。」
もう一度軽く会釈して、本田は部屋に戻っていく。一階の部屋のようだ。
修平は本田の後ろ姿を見送りながら、小さくため息をついた。
「やっぱ、マンションのほうが気が楽だったかな・・・。」
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