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それから数日後。
修平は大学構内で本田を見かけた。
あいかわらず寡黙な人物で、アパートで顔を合わせてもほとんど
会話らしい会話をしたことがない男だった。
本田は布をかけた大きな絵を重そうに持っていた。
肩にかけたカバンがずり落ちるたびに絵を降ろして肩にかけなおしている。
修平は思わず駆け寄っていた。
「本田さん」
「やあ」
本田の肩から、またカバンがずり落ちた。
「僕、持ちましょうか。これ。」
「え。」
「下宿までですか。」
「ああ・・・。」
修平は本田の手から絵を受け取って持った。
「君、いいの?」
「講義はもう。実技も今日は合評ないんで。
・・・また後で描きに戻りますけど、今ちょうど休憩中です。」
「そう・・・。悪いね」
「いえ」
二人は並んでアパートに向かって歩き出した。
本田はずいぶん疲れた顔をしていた。
「大きいの描くと、後がたいへんなんだ。」
「これは、課題ですか?」
「いや、個展用のね。」
「個展」
修平が羨望のまなざしで本田を見た。
「・・・っていっても貸画廊で一週間やるだけだけどね。」
「でもすごいっスよ。」
「来年はおちおち絵も描いていられないだろうから。」
「就職ですか」
「しないで済めばいいけどね。」
本田の弱気で自嘲ぎみな言い方に修平はとまどった。
まだ1回生といっても二十歳の修平には、もう社会人になっている友人もいる。
「君のように人付き合いが得意じゃないから・・・。絵を描くだけが取り柄で。」
「いや、得意とかそんな・・・。」
「君や鬼塚君を見てると感心するよ。僕を含めて他の連中、あまり交流ないだろう。
学校で会ったって、君みたいに声かけてくるやつもいないからな。」
「実は僕も最近まで知らなかったんです。」
「え?」
「うちのアパート、10部屋なのに11人もいるんですよ。ひとり多いんです。」
本田はそれを聞いても、そう驚くでもなく、いぶかしそうな顔をしただけだった。
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