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10−4
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しんとした部屋に、リンゴを剥くかすかな音だけがする。
あまりに静かなので、修平は手を止めずに目だけで鬼塚の様子を追った。
ぽろ・ぽろ・・・・。見開いた鬼塚の眼から、大粒の涙が零れていた。
彼は、
口をへの字にぎゅっと閉じて、肩を震わせ、静かに静かに、泣いていた。
「あたっ!」修平の手からリンゴが落ちる。
はっと顔をあげる鬼塚。
「あーーー!もう・・・。やっちゃったよう。」
修平の左手の親指から血が流れている。
「オニが泣くからだよ。あ〜。いってぇ」
鬼塚はあわてて拳でごしごし顔をこすった。
「ごめん・・・大丈夫?」
「うん。そんなに深くはないけど・・・」
指を口にくわえようとして、ふと手をとめ、流れてくる血をじっと見る修平。
「どないしたん?」
心配そうに修平の顔と指の傷を鬼塚が見比べる。
「オニ・・・?」
「え・・・。」
「・・・もったいないから、飲む?」傷口を鬼塚に見せる修平。
「え・・・。」
鬼塚は一瞬きょとんとし、それからぷっと吹き出した。修平もつられて笑う。
「かして」
鬼塚が修平の手をとって切れた指にそっと唇をつけた。
「あ」
自分から言い出したくせに、咄嗟に腕を引こうとする修平に、
鬼は困ったような笑顔を向けて
「大丈夫やから」と言った。
「う・・・・ん。」
あたたかくてやわらかい、唇が触れる。
「はい」
10秒もかからず、鬼塚が左手を修平の顔の前に押し返す。
傷は跡形もなく消えていた。
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