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10−5
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「すっげ・・・。」
自分の指をいろんな角度から観察している修平の手から、鬼塚がナイフを取り上げて
リンゴを剥き始めた。修平よりずっと手つきがいい。
二つのリンゴを切り分けて芯をとると、一切れを修平に差し出した。
受け取って齧る。「うん。スーパーのにしちゃ、上出来。」
鬼塚もひとつ取って食べ始める。
しばらく、シャクシャクとリンゴを齧る音だけが続いた。
ふいに
「泉くん、おおきにな」
鬼塚がちいさな声で囁いた。
「え?何?」
「もう言うた。」彼はリンゴをもったままにかっと笑った。
「何」
「もう言うたもん。」
鬼塚は座ったまま畳のうえをくるっと向きを変えて修平に背を向けた。
修平も座ったまま躄って彼の前に回り込んで顔を覗き込む。
「何?もっかい言って。」
「いやや。」
「なんで。もっかい言えよ。」
「いやーだ。」
リンゴを食べながらしばらくふたりでくるくる回っていたが、
そのうちどちらからともなく笑い出すのだった。
*
深夜、桜の枝に鬼塚の姿がある。
月の光に白い肌が蒼く光る。髪のあいだからちいさく角が覗いていた。
月光に向かって瞳をとじ、幸せそうな微笑みを浮かべる鬼塚。
風が、桜の枝をしずかに揺らしていた。
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