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16−1
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夜が、明けようとしていた。
医師にうながされて、鬼塚は後ずさりするように、ゆっくりと修平から離れてゆく。
修平はその場から動く事ができなかった。
鬼達が彼を迎え入れ、医師を先頭に、一塊になる。
東の空が白むのにあわせるように、その姿がゆっくりと霞みはじめた。
風のように姿をかえた鬼達はふわりとうきあがると、薄明の中に溶けはじめる。
最後尾にいた鬼塚が、修平の方を振り返った。
彼の唇がなにか叫んだようだった。
が、次の瞬間、鬼達の姿は一陣の風になり、かき消すように、
消えた。
修平は、何も言えず、手を振ることさえしなかった。
できなかった。
鬼達の去った方角から、ひとひらの桜の花びらが舞い降りてくる。
くる、くるとまわりながらどこか名残惜しそうに舞う桜。
目の前に落ちて来た花びらを右手で受け止めた修平は、
それを強く握りしめて拳を額にあてた。
そのまま、膝を落としてその場にうずくまる。
そのときはじめて、
涙が彼の頬を伝った。
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