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17(最終章)ー4
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修平は桜荘の跡地に立っていた。
アパートのあった場所は綺麗に整地されて、砂利敷きの駐車場になっている。
桜の木の切り株も取り除かれて跡形も無い。
かつての自分の部屋あたりに立った修平は、しばらく目を閉じて、
当時のことを思い返していた。
なにもかも懐かしく、そして少し胸がいたくなる思い出だった。
ふいに、背後から風が吹いた。
目を開けて振り返ると、自分の肩に桜の花びらが乗っていた。
「あれ、どこから・・・。」
気付くと、うしろに小さな男の子が立って、修平を見つめている。
修平もじっと子供をみて言った。
「かくれんぼ・・・しようか。」
子供は目を大きく見開いて修平の顔を見、やがて嬉しそうににっこり笑った。
「君、このへんの子?」
子供は答えずにただ笑っている。
「ねえ・・・。」
修平が子供に向かって歩き出したとき、ひときわ強い風がまた吹いた。
思わず目をつぶった彼が再び目を開けると、子供の姿は消えていた。
子供の立っていたのが、桜の木のあった場所だったと気づいて、
修平は思わず駆け寄った。
かがんで、地面をよく見てみた。
砂利のあいだから、ちいさな命が、顔を出している。
なんの新芽かわからない。けどこれはきっと。
そう、きっと桜だ・・・・。
思わず天を仰いだ修平の頭上に、満開の桜が広がる。
「オニ・・・・。」
鬼塚は。いや、鬼塚たちは・・・・。
彼らは、もう二度と戻ってこないのだろうか。
もう人の心には、彼らの存在を受け入れる隙間さえないのだろうか。
彼らのいないこの世界は、ほんとうに幸せなのだろうか。
また別のなにかが、弾きだされ、絶えることを強要されるのではないか。
修平はそんな事を考えながら桜荘跡をあとにした。
俺はきっとこれからも、
ずっとずっと彼らの絵を描き続けるのだろうな、と思った。
なぜなら、彼らに逢いたいから。
そうすることでしか、
オニ。
君にはもう逢えないのだから。
完
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