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龍弥がいなくなった。
もう二度と、会えない。
追いかけなくては。今すぐ、追いかけて、大阪に行くと言わなければ。
そう思うのに、手も足も動かなくて呼吸の仕方さえ忘れてしまった。上手く息ができなくて、酸欠なのか過呼吸なのかわからないけど全身が痺れ始めた。
「やだ......」
やだ。
「やだぁ......っ」
龍弥、龍弥、龍弥。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。全部俺が悪いから、全て謝るからもう二度と我が儘なんか言わないから、ただ龍弥だけ愛させてほしいもう一度......
「ひっ......う、うぅ、うぅー......っ」
言葉にならなかった。自分が悪いのだ。もう一度なんてない。諦めるしかない。幸せを、祈るしかない。
「ひぃっ、うっ、ひっ、く、うぅっ」
自分が許せなかった。龍弥はあんなにも、あんなにも愛してくれたのに。
二兎追うものは一兎をも得ずとは、よくできたことわざだ。
俺の手には何も残らない。
その場にへたりこんで虚しい両手を広げてみると、醜いほどに痩せ細った自分がいた。けれどもまだ、左手には龍弥からもらった指輪がついていた。龍弥の指にも、ついさっきまで、同じものが光っていた。龍弥は俺が大阪に行くと言うのを、ずっと待っててくれたのだ。
何が幸せなのかわからない。
けれど龍弥が願うなら、叶えてあげるべきだった。龍弥のお願いはどんなものだって叶えてあげようと思ったのに、俺は......
「ごめんなさい......」
指輪をはずす。
「ごめんなさい......っ」
もう、間に合わない。
終わりのない闇を見て、俺は全てを諦めた。
龍弥の中から俺という存在を消して、幸せになることを祈るばかりだ。
この命と引き換えに龍弥が誰よりも幸せになるというなら、惜しみ無く捧げるのに。
俺の命はそんな価値すらもなく、ただ、無意味な生が続いていくのだった。
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