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インターホンは何度も鳴り響く。開けなくちゃ、そう思うのに、玄関までさえ上手く歩けない。ようやくたどり着いた時にはもうベルは鳴っておらず、行ってしまったかと思った。それでも裸足のまま鍵を開けて飛び出せば、懐かしい黒ずくめのスーツ姿が闇に溶け込むようにいた。
「轟さん......」
「姫!あぁ、ご無事で良かった......どうされました、何奴かに襲われましたか、お怪我は......あぁ、こんなにお痩せになられて」
轟さんは俺を見て、心配そうな顔をして矢継ぎ早にそう言った。
「轟さん......ごめんなさい」
「貴方が謝ることなどありません。私は姫の為ならばたとえ火の中水の中、どこへだって参ります。あぁ、外はまだ寒い。そんな格好では......」
「轟さん、温めて......」
変わらない姿が嬉しくて手を伸ばす。けれどもその手は轟さんに届く前に落ちてしまった。いや、手が落ちたのではない。身体が傾いて、地面のアスファルトが近づいてくる。転けている。その瞬間が酷くスローモーションに感じられ、その途中で意識がなくなった。
***
目が覚めると、真っ白な部屋にいた。
「......ここ」
「はっ、姫、気がつかれましたか!良かった......すぐに東雲氏もいらっしゃいますよ」
「父さん......?」
「急に倒れられたのです。あまりに痩せられていたので心配になって救急車を呼びました。ここは病院ですよ」
道理で、全てが白いわけだ。首を動かすとすぐ近くに窓があって、そよそよと爽やかな風が頬を撫でた。空は清々しいほど青く澄んでいる。
「姫......」
「......ごめんなさい、ご迷惑お掛けしました」
「そんな!迷惑など......しかし、こんな時に成宮氏はアメリカですか。今すぐ呼び戻しましょう」
「だめ!......だめ、彰吾には迷惑かけられない。たとえ俺が死んでも伝えないで」
「し、死ぬなど物騒なこと仰らないでください!......な、成宮氏となにかあったのですか......?」
彰吾......その名前を、もう随分口にしていなかった。名前を呟くだけで心臓が甘く疼く。
「轟さん、俺、今フリーだよ。どう?付き合っちゃう?」
「つ、つつつ付き合う!?いや、えっ、えっ!?ななな、成宮氏とはまさかっ」
「俺が悪いの。全部......全部俺が悪いの。ふふ、俺、今度は轟さんまで不幸にしようとしてる......ごめんね......ほんと、ごめんなさい......今の、嘘だから......忘れて」
「不幸など!あああ、貴方は私にとってどれだけ特別な方か......っ」
武骨な手が、俺の手に重なった。骨と皮だけの手には点滴の管が突き刺さっている。
「悲しみの淵にいる貴方をこの私が励ませたらどんなに幸せでしょうか......姫、どうか......己を責めないで下さい。どうかご自愛下さい。貴方は優しい方です。いついかなる時でも美しい方です。だからどうか......」
この人は、こんななりになっても俺を想ってくれるのか。嬉しさと申し訳なさで、なにも言えなかった。
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