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久しぶりに帰宅するも、玄関で俺は固まってしまった。
「鍵渡しただろ、早く開けてくれよ」
車を止めて後ろから荷物を持ってきた父さんが言う。
「雅?どうした?」
この家には、龍弥との思い出が多すぎる。少し前まで一緒に暮らしていた。今だって、龍弥の部屋は変わらずあるはずなのだ。でも、そこに龍弥はいない。
「......雅。今日はホテルにでも泊まるか?」
察したらしい父さんがそう言ってくれたが、俺は首を振って鍵を開けた。
「......」
静かな家だ。まるで人が住んでいないみたいに。父さん一人では掃除もろくにしていないのだろう。少し埃っぽい。俺は窓を開けて掃除道具を取り出した。
「おいおい、退院早々掃除って、とりあえず休めよ」
「......こんな埃っぽいところにいたら、それこそ病気になるよ」
「悪かったよ......あー、掃除機くらいかけとくから」
掃除機さえ持ち上げる力がなくて情けない。それを父さんがひょいと持ち上げたが、引っ張り出したコードの先を持ってきょろきょろしている。
「えーと、コンセント......」
「嘘でしょ、どんだけ家のこと知らないわけ」
父さんの手からコードを奪ってコンセントに挿した。その時目についたキッチンも、酷い有り様だった。
「キッチンもぐちゃぐちゃじゃん。ほんと信じらんない」
「だから悪かったって」
「俺を退院させたの、家政婦が欲しかったからじゃないの」
「ばか、違ぇよ」
「あはは......ほんと、仕事しかできないんだから」
久しぶりに笑った気がする。ほんと、家のこととなると途端に頼りなくなる父さんが、俺は嫌いじゃなかった。
父さんに指示を出しながら一緒に掃除をした。けれど、1時間もしないうちに俺はふらふらになって立っていられなくなった。
「ちょっと休憩......」
「休憩っつか、今日はおしまい、また明日」
「えぇー」
「えーじゃねぇよ、病人。そうだ、飯にしよう、飯」
「どうせ材料なんか何もないんでしょ。どうするの」
「こんな状態のおまえに作れなんて言わねぇよ。なんか出前でも取ろうぜ。あ、寿司食いたい」
「好きなもの勝手に頼んで......」
「おまえも食えよ。適当に頼むから」
退院早々お寿司ってどうなのかと思ったが、今は少しお腹が空いているような気もした。さっきのメロンパンの残りも気になったが、それはまた明日食べることにしよう。
龍弥がいない家だけど、父さんがいてくれて良かった。不器用で優しい父さんが、今は必死にスマホで出前のできる寿司屋を探している。それを横目に、俺は電話帳の中から一枚、寿司屋のチラシを取り出して父さんに渡した。またばつが悪そうな顔をする父さんを見て、俺は小さく笑った。父さんと二人きりの家族も悪くはない。
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