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病院を出てから、父さんとうどんを食べて帰った。俺は東京育ちだけど、関西育ちの母さんの影響で食の好みは西の味だ。母さんが作ってくれるうどんの出汁が一番美味しくて、東京のうどん屋では好みの味がなかったのだが、たまたま父さんが見つけたのうどん屋が関西風の出汁だというので、俺を連れてきてくれたのだ。
優しい味でとても美味しかった。それでも一杯は食べきれなかったが、久しぶりに食事を美味しいと感じて、胃が受け付けてくれた。
ややもするとマイナス思考に陥りそうではあったが、父さんと並んで歩く帰り道はなんとなくくすぐったくて楽しかった。帰宅してからは、俺は一人、母さんの仏前に向かった。
何が正しいのかわからない。全てが駄目なように思える。母さんみたいな人になりたかった。優しくて、周りの人皆を明るく幸せにしてくれるような。
弟に恋した時点で、俺は許されざる存在だったのだと思う。たくさんの人を傷つけた。でも、死ぬことだけが償いにはならない。なんの罪もなかった母さんが事故で突然命を奪われた。生きている俺は、生きている限りできるだけのことをしなければならないはずだ。
優しく微笑む母さんの前で手を合わせて、俺は自室へ戻るとスマホの電源を入れた。夜の8時。今なら、まだ電話を掛けても失礼な時間ではないだろう。
アドレス帳から一つを選んで電話を掛ける。その人は、相変わらずワンコールもしないうちに電話口に現れた。
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