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『もっ、もももも、もも、も、もしもしっ!』
ものすごく吃った大声と物がひっくり返るような騒音が聞こえてきて思わず耳からスマホを離した。それをおそるおそるまた耳に近づけて、声を掛ける。
「あの......こんばんは、雅です。今、大丈夫ですか?」
『だだっ、だい、だい、だっ......みやびっ、ひゃん......っ』
今度は嗚咽まで聞こえてくる。いい大人が、恥も外聞もなく大声で泣いているようだった。
「轟さん?大丈夫ですか?」
『だだ、だいじょ......すびまぜん、あの、すびまぜん』
今度はチーンッと鼻をかんでいるらしい音が聞こえた。
『し、失礼しました......すみません』
「ふふ、あははは」
『み、雅さん?あ、あの』
「ごめんなさい......ふふ。轟さん」
『は、はい』
「轟さん......ごめんなさい。俺、すごく失礼なこと言ってしまったから」
『そそ、そんなこと、雅さんが気にされることではありません!』
「どうして轟さんは怒らないの?俺のこと、嫌いにならない?」
『どうしてわ、私がお、怒るのですか......私は、一下僕に過ぎません!こうして、気にかけて頂けるだけで......っ、うぅ、ずびまぜん、みやびさん......』
「泣かないで。......ねぇ、許してくれる?」
『許すもなにもありまぜん......私は、私は貴方の下僕で......っ』
「下僕なんてやめて。俺も、女王様なんかじゃないから......轟さんより一回りも二回りも年下なんだから。怒って、俺のこと。調子に乗るなって」
『あ、貴方が優しい人であることは知ってます!女王の顔が仮面だと言うことも知ってます!雅さん......身体は大丈夫ですか、今は大丈夫ですか』
轟さんの優しさは、彰吾の優しさに似ていた。どこまでも俺を許して、受け止めて、認めてくれる。こんなに優しい人を、俺はもう傷つけたくはない。
「大丈夫......さっき父と家に帰ってきたところです」
『そうですか、良かった......』
「轟さん。......轟さん」
この人を愛せたらいいのに。なのに俺の心は、轟さんを通して彰吾を求めている。龍弥を求めている。それでも。
「轟さん、好きです」
『ファッ!?ファーッ!?』
それは本当だった。蓬莱さんも、父さんも、好き。“愛してる”とは言えないけれど、俺にとって大切な人であることは確かだ。それは、俺を想ってくれているからという理由だけかもしれない。でも、傷つけたくないと思う。俺も、同じだけ大切に想っていると返したかった。
『ひっ、ひひひひひめ、あ、いや、みや、み、あのっ』
「姫でいいです。轟さんだけの特別な呼び方だし、やっぱり女王様にはなりきれなかったし」
『とっ、ととと、とく、べつ』
「轟さん、俺、すっごく狡いんだよ。轟さんのこと好きだけど、心から愛してる訳じゃない。なのに、轟さんには求められたいと思ってる」
『ひめ......あぁ、姫......私が今どれ程幸せか、貴方にはわからないのですか......貴方が私を受け入れて下さるだけで十分すぎる程なのに、そんな言葉まで頂けるなど......』
「大げさ......ねぇ、轟さん。轟さんも言って。言葉をちょうだい」
『姫、姫......お慕い申しております、貴方だけを』
「ふふっ、そんな格好いい告白してくれるの、轟さんだけです。......ありがとう......ごめんなさい」
『ひひ、姫、な、泣かないでください!貴方が悪いことなんて一つもありませんから!』
こんなにも愛されて、なのに彰吾が、龍弥が、恋しくて恋しくて泣けた。自分の身勝手さと未練がましさが許せなかった。こんなにも愛してくれる人に同じだけ愛せない歯痒さに泣けた。
「ごめんなさい、ごめんなさい......」
電話越しに泣いて謝るしかできない俺を、轟さんは叱ることも見捨てることもなくずっと付き合ってくれた。
『ど、どうか謝らないで......す、すすす、す、すき、と、一言下されば、わ、私は......!』
「轟さん......好き。大好き。ごめんなさい、ありがとう......」
好き、と言う度に奇声が聞こえてきて、最後は可笑しくなって笑いながら電話を終えた。
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