アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
62
-
アメリカに来て、日本からの連絡はほとんどなかった。何度か東雲さんからは電話をもらったが、雅の様子を聞く勇気はなくてこっちから何も言わずにいると、向こうも察してくれているのかいつも他愛もない話を二つ三つするだけで終わる。
そういえば蓬莱さんとも日本を出てから一切連絡がなかった。日本を出る前に電話だけは何度かしたが、いつも素っ気ない返事ばかりだった。
『柚木と一緒にアメリカに行くことになりました。当分日本には帰ってこない予定です』
『あっそう。別に俺はおまえがどこで何してようとどうでもいいよ。さっさと行け行け』
『絶対師匠もあっと言わせるくらいの緊縛師になりますから』
『雅くんがいなくておまえに何ができるかな』
『......』
『ま、楽しみにしてるよ。俺が教えてやったんだ。ヘマするなよ。じゃあね』
いつだって俺には厳しく冷たい師匠だったが、それでも俺をここまで導いてくれたのは蓬莱さんだった。雅に一目惚れして、雅を縛ってみたいというだけのバカな動機を受け入れてくれたから、俺は緊縛師になれたのだ。師匠の元にいた一年間は血を吐くほどの地獄だったし、鬼畜師匠を単に好きとは口が避けても言えないがいつだって感謝はしていた。
いつだったか、おまえになら自分の継がせてもいいと言ってくれたことがあった。結局その後も、まだまだだ、まだまだだと言われ続け、ただの戯れだったのかもしれないとは思う。それでも、蓬莱さんが弟子に取ったのは後にも先にも俺だけなのだ。
いつもは恐怖のあまりなるべく師匠を避けるようにしていたが、せめて日本を出る前には一言挨拶しようと思っていた。父親のいない俺にとって、蓬莱さんは厳しすぎる親父のような感じもあったのだ。東雲さんによる教会での緊縛に参加した時、俺の父親代りだと言って隣に居てくれたことを思い出す。ただの冗談でも、俺には嬉しかった。
日本でも緊縛だけで稼げるようになって、少し貯金も増えた。金持ちの蓬莱さんにご馳走するなんて鼻で笑われそうだが、せめてもの気持ちだった。
『俺が食べたいものを食べたいだけ食べたら、おまえの貯金なんてあっという間になくなるけど』
『ぐ......もうちょっと、安いところでお願いします......』
『やだね。超一流レストランのフルコースに、最高級のワインをつけてもなお余りあるくらいの金を稼いでから出直せ。最も、そんなものおまえに奢られなくても俺はいつだって食べられるんだが』
俺からの恩とかそういうものはあの人には関係なかった。蓬莱さんには雅が全てだった。俺は空気と同じくらいの存在でしかなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
64 / 214