アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
81
-
「ふふ、でも、轟さん、ユキのことも好きでしょ」
「えっ!?な、なぜですか!」
「だって、あっちの壁にはユキが出てるAVのタイトルが並んでるし」
俺が指差した方には、ユキコーナーとも言えるだけ、ユキのAVやら写真集がきちんと棚には納められていた。他のAVは見当たらない。
「はっ!えっ、えっと、そ、そそ、それは......っ」
「あは、別に怒らないよ。俺の方が酷いんだから。でも、ユキなの?趣味悪いよ」
「ええぇー......」
「あはは、冗談冗談。じゃあ、今回のヤツは轟さんには最高だった?」
「もっ、そりゃ、この上ない作品でした!まさか姫が、あ、ああいったものに出演されるとも思わなかったですし、それも緊縛とは関係なくユキさんと......ユキさんを、ひ、姫が......っ、......びっくりしました......」
「俺がタチしたの意外だった?」
「そりゃそうですよ!で、でも、あの、お綺麗でした......姫はどんな姿でも、やはり美しいです」
「エロいの間違いでしょ?ふふふ」
身振り手振りを激しくしていかに素晴らしかったかを熱弁されると少し恥ずかしいが、喜んでもらえたなら良かったなと思う。
「何より黒猫白猫というコンセプトがお二人を明確に表していて良かったです!」
「俺のネコ、キモくない?」
「ななな何を仰いますか!貴方以上にぴったりな人なんておりませんよ!」
「そう?じゃあ今度は、轟さんだけのネコになろうかなぁ......ねぇ、どう?ユキに耳と尻尾もらってこようか」
「えっ、えぇっ......そ、そんな、や、あのっ」
「ニャーン」
猫の真似をして擦り寄ったら、轟さんは顔を真っ赤にして固まってしまった。
「ふふっ。まだ慣れないの?」
「な、慣れる日など来ません......」
「うん。そのままの轟さんが好きだからいいけど」
「すっ、すす、すっ、すっ」
「す、き」
もはや瞬間湯沸し器のように、ピーッと頭から湯気を吹き出していそうなくらい、真っ赤になって悶えている。轟さんといるのはとても楽しい。かと思えば、地響きのように低いグウゥという音が聞こえてきたりして。
「ハッ......!あ、の、その、あのこれはっ」
「......ごめんなさい、もしかしてもしかしなくても、お昼ごはん食べてなかったです......よね」
「え、あ、あの、はぃ......」
なおもお腹がグゥと鳴っている。自分が食べないからすっかり忘れていた。時刻は夕方の4時を差している。
「ちょっと早すぎるけど、夕飯一緒に食べます?材料あったら作ってあげられるんだけど......あんまり料理はしないみたいですね」
父さんと約束したのは、この際まぁいいだろう。ベッドから台所が見えるが、あまり物がないあたり自炊はしてなさそうだ。
「ひ、姫が、料理を?」
「料理も掃除もなんでもできるよ。母親が早くに死んだの。東雲さんはあんなでしょ。必然的に俺が家事するようになったんです。知らなかった?」
「......」
目を丸くして驚いている。俺のことなら何でも知ってるのかと思ったが、そうでもないらしい。
「今度はなにか好きなもの作ってあげますよ。轟さんは何が好き?」
「......は、ハンバーグ......」
「ハンバーグなら得意だよ。楽しみにしててね。でも、今日は食べに行きましょうか」
「ひ、姫のハンバーグ......」
誰かのために料理をするのは好きだった。轟さんの喜ぶ顔が目に浮かぶようで、俺も嬉しくなった。
「轟さん、ありがと」
「へ?な、何がですか?むしろわ、私の方が、感謝してもしきれませんよ!」
この不器用な人が好きだと心から思えた。いつか、龍弥のことも彰吾のことも忘れて、この人だけを愛せるだろうか。
そうなればいいのに。そんなふうに思いながら、でもそれは叶わないのだろうなと思う。楽しい時間がいくらあれば、この心の隙間は埋まるのだろう。
龍弥だけを愛していた頃、彰吾はどうやって俺の心をあんなにも埋めてくれたのだろうか。二人で埋め尽くされていた俺の心は、小さな幸せをたくさん見つけて埋めていくしかない。
それは誰に対してもとても不誠実なこと。それでも、「姫のハンバーグ」と何度も呟いている轟さんがすごく嬉しそうだから、今はこれでいいかと考えることを諦めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
83 / 214