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(Side:轟)
姫との距離が近くなった。
これまで女性とお付き合いした経験がない私にとって、人生で一番心奪われた方と親しくさせてもらっているだけで、もうどうしていいのやらパニックになってしまう。
普段から吃音の酷く、他人との接触が苦手で端から見ればおそらく挙動不審だろう私を、人はよく笑ったりバカにしたりしていた。幸い勉学にはさして苦労せず、仕事もそつなくこなしているから人と親しくなろうと考えなければ普通の生活は送ることができた。それでも、一人が寂しくないわけではない。40も過ぎ、結婚などいよいよ夢のまた夢になっていた頃、姫に出会った。
女王の仮面を被っていても、姫は私を見下すことはなかった。からかわれることはあっても、その後必ず気にかけて下さった。姫になら、貶されてもバカにされても構わないと思っていた。姫は特別な存在で、誰よりも気高く美しい。知性があるのも見てわかり、この人になら下僕にされてもいいと思った。
なのに姫は私を貶すどころか、その他大勢と同じように扱ってくださった。いや、それ以上だ。欠かさずショーを見に行ったことで顔見知りになり、必ず声をかけてくださるようになった。拉致事件以降は連絡先を交換してプライベートでも会ってくださるようになった。
姫には大切な方がいる。......成宮氏だ。初めはチャラチャラしたいかにもな今時の若者で気に入らなかったが、姫への想いが本物だと分かってからは、姫が成宮氏と幸せになれるなら何も望むまいと思った。よもや、私が姫と恋人に、など考えたこともない。
しかし今、成宮氏とはうまくいっていないご様子だった。眩しいほどの笑顔は消え、成宮氏と出会う以前の......いや、それ以上に、影を纏った切ない笑みしか見られなくなった。
食欲がないのだろう、元から華奢だった身体はますます細くなり、自棄になって下等な男に抱かれていた。私に冷たく当たられることくらい構わなかった。それ以上に姫が苦しんでおられるのがわかったからだ。闇雲に私に冷たく当たっているわけでないことくらい瞳を見れば分かった。優しい瞳は、助けてくれと言っているようだった。
しかし私にはどうすることもできなくて、もどかしく感じながらもおろおろするしかなかった。姫の力になれるならなんだってしようと思うのに、姫はいつだって自分の力だけで立っていらっしゃる。とても不安定で、許されるなら隣で支えて差し上げたいと思うも、優しい笑顔と言葉に私ばかりが幸福になる。
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