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翌日、俺と父さんは新幹線で名古屋へ向かった。俺はわりとわくわくしてるのに、父さんはいつにも増して不機嫌と言うか、無口になっていた。
「そんなに蓬莱さんのこと嫌いなの?」
「......嫌いって......んなガキみたいな感情じゃねぇけど」
「苦手?」
「......」
「そのわりに仲良しじゃん。蓬莱さんが父さんのこと好きなのかな」
「気持ち悪いこと言うなよ」
「だってよく一緒にあっちこっち行ってるし。今回だって、何を隠してるのか知らないけど、父さんだけは蓬莱さんのこと分かってるみたいだし」
「......」
「......もう。そんな顔しかめてたらシワが増えるよ」
「うるせぇ」
名古屋駅に到着すると、父さんはタクシーを捕まえた。いつも名古屋に来ると必ず蓬莱さんが駅まで迎えに来てくれるのに、やっぱりどこかおかしい。しばらく走ると、見覚えのある住宅街に入っていた。
「うわ......すげぇな、家っつーか、屋敷だな」
「初めて来るの?」
「ああ。えーっと、チャイムはどこだ......門さえでかすぎんだろ」
ほら、また。蓬莱さんと父さんは仲が良いのか悪いのかは置いておいても、よく行動を共にしている。今日だって、俺だけじゃなく父さんも呼びつけているのに、父さんはここに来るのが初めてだと言う。二人の関係がよくわからない。
『そこは開いてる。中まで入ってきてくれ』
「はいはい」
インターフォンから聞こえる蓬莱さんの声。俺は門の隣の小さい扉を開けて父さんを手招いた。
「来て。中はもっとびっくりするよ。迷路みたいだから」
「......うげぇ」
広すぎる庭は、しかし手入れがされていなくてジャングルのようになっている。立派そうな松の木も、四方八方延び放題だし、雑草で石畳が見えにくくなっていた。折角なのだから庭師を呼べばいいのにと言ったことがあったけど、ろくに帰ってこないから面倒なのだと言っていた。
やっとのことで玄関まで辿り着くと、蓬莱さんが表へ出て立っていた。
「蓬莱さん!」
「あぁ、雅くん。よく来てくれたね」
久しぶりの再会に俺は思わず蓬莱さんに抱きついた。懐かしい匂いを胸いっぱいに吸い込む。そして違和感を感じた。高級そうなガウンを羽織っているその身体が、一年前より細くなっている気がしたのだ。顔を上げて蓬莱さんの顔を見ると、頬も少し痩けているように見える。
「会いたかったよ」
「俺も......会いたかった。蓬莱さん」
「可愛いことを言ってくれるね。さぁおいで。一先ず中へ」
言いたいことはたくさんあったけど、変わらず優しい瞳が俺を映してくれたことが嬉しくて、なにも言わずに手を引かれて中に入った。その手も、一年会っていなかったとはいえ急に老いたように感じた。
「東雲くんも。色々世話をかけるね」
「......いえ」
父さんの顔は相変わらず浮かない。でも、俺はあれこれ気にする以上に、今は再会が嬉しくてずっと蓬莱さんの腕にひっついていた。
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