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「う、そ......」
蓬莱さんから発せられた言葉が、どこか遠くの方でこだまする。
「嘘なら良かったんだけどね......生憎、この身体全部、癌に冒されているんだ」
「そん、な......え......?」
変わらず穏やかに話す蓬莱さんに対して、俺は突然のことに動揺を隠しきれずにいた。
「嘘でしょ?ね......」
「本当だよ」
「びょ、病院、行って......?まだ、治るかもしれない」
「この一年近く、これでも頑張ったんだけどね。ついに医者も根をあげてしまったんだ。一つ取ってもまた新たに転移して、もう身体はボロボロさ」
「うそ......」
身体がガタガタ震えて、堪えることもできず涙が溢れた。
「なんで......俺、待ってたのに......1年、待ってたのに......っ、嘘でしょ、ねぇ、蓬莱さん、やだ、やだ......っ」
「俺のために泣いてくれるの?嬉しいなあ......この涙全部、墓場に持っていきたいよ」
「やだ......っ」
蓬莱さんは笑顔で、俺の涙を拭ってくれた。痩せ細った身体、痩けた頬、骨と皮ばかりの手。全てが蓬莱さんの病魔を物語っていた。かさかさの手を強く握りしめ、嘘だと言い聞かせてみても蓬莱さんは笑っていた。
「雅くん......どうか俺の、最後の願いを聞いてくれないかな」
「ひっ......やだ、最後なんかじゃないっ......ねぇ、なんでもする。なんでもするから......っ」
蓬莱さんはソファーから降りると、俺の手を取ったまま床に跪いた。
「いつかも言ったお願いさ。......雅、愛してる。俺と......結婚してくれないか」
「ふ、ぅ......っ」
「指輪一つ用意できなかった上に、こんな不格好で情けないね」
「......そんな、こと......っ」
「俺が死ぬまででいい。側にいてほしい」
「......っ」
富も、名誉も、何もかも持っている蓬莱さんが、死を目の前にして求めるものが俺だなんて。
俺のどこに価値があるのか、俺には全然わからなかった。それでも、俺の答えは決まっていた。
「2ヶ月なんてやだ......ずっと、一生、蓬莱さんのものになる......だから、死なないで、ずっと側にいて......っ」
こんなにも愛されて、愛されて、同じだけ愛せないのに、最後の最後にまで求められて、それなら俺は、この身体全てを捧げようと思った。
こんな時でさえ俺の心の中には龍弥と彰吾がいる。蓬莱さんはそれを知っている上で......そして、誰よりも気高いこの人が、跪いてまで求めてくれるなら。
「俺の、この身体全部、蓬莱さんのためにあげる......愛して、俺のこと......っ」
「あぁ......本当にいいのかい?愛してるよ、雅......」
約束の口づけは、涙の味がした。
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