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「東雲くん、そこにいるんだろう」
蓬莱さんがそう言うと、すぐにリビングのドアが開かれ、そこには父さんが立っていた。
「聞こえていただろう?俺に、雅くんをくれないか」
「絶対嫌です......と、言いたいところですが......雅が決めたなら、俺には何も言えませんよ。こいつだってもう子供じゃねぇし、ま、金に苦労するようなことはないだろうし」
「はは、せめて金だけでもあって良かった」
蓬莱さんの匂いを、体温を、鼓動を、一時でも逃したくない思いでその細くなった身体に抱きつく。そんな俺の頭を、父さんがぽんぽんと撫でた。
「......おまえは、どうしてそう悲しい道ばかり選ぶんだろうな」
「......」
悲しい道なんかじゃない。望んで、蓬莱さんのものになるのだ。明るい未来が見えるわけではなくても、この瞬間蓬莱さんのために存在できるなら本望だった。
「書類は揃ってます。証人には、俺と芹沢の名前を書いてますから」
「さすが、仕事が早いね。こうなるとわかっていたのかい?」
「......雅の性格なら」
「連れてこなければ良かったんじゃない?」
「そんなことすりゃ、一生雅に恨まれるのは俺じゃないですか」
父さんからの書類を受け取った蓬莱さんは、一頻り目を通してから、万年筆を取り出した。父さんと芹沢さんの名前の書かれた養子縁組の紙に、蓬莱さんの名前が書き足される。
「......あとは、雅くんの名前だけだ」
「......」
「やめてもいいんだよ。これはまだただの紙切れだ」
俺は首を横に振って、なおも震えの止まらない手で万年筆を受け取ると、ゆっくりと養子の欄に名前を書いた。
「叶うなら、どこかの国で正式に結婚したかったんだけどね。これじゃあただ親子になっただけだし」
「......」
「役所の方は俺が行っときますから。これで、東雲雅から蓬莱雅になったな。悪くねぇじゃん」
「父さん......」
「なぁに、俺がおまえの父親なのは変わらねぇよ。何があっても、おまえを一人にはしない。俺がいる」
「......」
「さ、て。どうする?おまえ、明日は朝から仕事が入ってるとか言ってたな」
そうだ。すっかり忘れていた。最近は仕事でもしていないと落ち着かなくて、予定をたくさん入れていたのだ。轟さんと会う予定も、来週にはユキと先生の講演会に行く予定もあった。
「......」
「一度東京へ帰りなさい。明日には雅くんが生活できるだけの物も用意しておこう」
「でも......」
「いきなり今夜くたばることはないさ。せっかくきみと結ばれたんだ。初夜も迎えず死んだりしたら、死んでも死にきれないよ」
「蓬莱さん......」
「必ずここへ帰ってきておくれ。これからは、ここがきみの家だと思ってほしい」
「ん......キャンセルできるだけ、キャンセルさせる。明日は......急すぎて、キャンセルできないけど」
「必要な荷物も持ってくるといい。迎えに行ってあげられなくて悪いけどね」
「蓬莱さん......一つだけ、俺のお願いも聞いて」
「この身体でできることなら、なんでも」
「俺の......最後の仕事、蓬莱さんの緊縛がいい」
「......何故、雅くんの最後になるんだい?」
「再来週、企画芹沢さんで東雲さんと予定してたやつ、あれ名古屋でしょ?蓬莱さんと代わって」
「俺は、いいけど」
「雅くん?きみは仕事を辞める必要はないんだよ?いや、きみ一人遊んで暮らせるだけの金くらいあるけど」
「お金なんかいらない。......だって俺、もう蓬莱さんのだから。蓬莱さんは、俺にずっとモデルしててほしい?他の男に縛られて、他の男に犯されててほしい?」
「そう言ってるわけじゃないよ......しかし」
「再来週の舞台が最後。それからは、ずっと、ずっと蓬莱さんの側にいる」
「......雅くん」
「頑固だからなぁ、雅は......蓬莱さん、諦めてやってください。んで、あと二週間は意地でも生きてください。芹沢には俺から言っておきますから」
「あ、あぁ......」
俺の心はもう決まっていた。
俺の人生は、蓬莱さんのために捧げて、そして、終わろうと。
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