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あれは去年の冬......年明けてすぐ、いい企画を思い付いたと張り切る芹沢に呼び出されたのだった。蓬莱さんとは年始早々に会っていたから、俺はかなりうんざりした気分だった。何が悲しくて二週間と空けずにこの男と会わねばならんのかと。おまけに名古屋から来る蓬莱さんを東京駅まで迎えに行ってから芹沢と合流することになっていて、打ち合わせの店へ向かうタクシーの中で当然のごとく、終わったらホテルに来いなどと言ってくるのを右から左へ聞き流していた。
打ち合わせと言うからには他にも何人か呼ばれているのかと思えば俺と蓬莱さんだけだと言われ、居酒屋の小さな個室で初っぱなから酒を頼みながら会合は開かれた。
企画の内容は、アメリカであるアダルトコンベンションに出展するというもので、日本を代表する緊縛師である蓬莱さんと、アート系緊縛で世界での認知度もある俺の二人で共同制作しないかというものだった。
『いいんじゃない?東雲くんの生ぬるい緊縛も、けして嫌いではないよ、俺は』
『俺は嫌だね。なんだって仕事まで一緒にしなきゃなんねぇんだよ』
『えー、お二人めちゃくちゃ仲良しじゃないですか。モデルはもちろん雅くんでー』
『いいね。乗った乗った』
『アンタ、雅が来るならなんでもやるんだろ。......はぁ、せいぜい邪魔してやろ』
他にも2、3件、今年やりたいことなんかを話して、あとはだらだらと酒を飲んでいた。
『蓬莱さん、もう飲まないんですか?それとも、焼酎に変えます?ここ、芋の種類が豊富なんですよ』
芹沢が蓬莱さんに酒を注ごうとするも、手元の猪口は一ミリも減っていなかった。俺に負けず劣らずの酒豪である蓬莱さんなら、日本酒なんて何合でもいけるはずなのに珍しい。
『最近ちょっと調子が悪くてね......さすがにそろそろ歳かな』
『さっさとくたばってください』
『きみもあと10年すればわかるよ......っと、すまない、ちょっとトイレに......』
その時だった。立ち上がり、個室の扉を開けようと扉に手をかけた蓬莱さんが、急に前のめりに蹲って、腹を抱えながら、赤黒い物を口から吐き出したのだ。
『え......蓬莱さん?』
『蓬莱さん!蓬莱さんっ、しっかりしてください!す、すみません、救急車、救急車呼んでください!』
芹沢の冷静な対処ですぐに店員に救急車を呼ばせた。蓬莱さんは意識があるのかないのか、さっきまでとは打って変わって真っ白な顔で苦しげに眉を寄せていた。
それから間もなく救急車が到着し、芹沢は店の始末をすると言って残り、俺が着いていくことになった。酸素マスクをつけられヒュウヒュウと薄い呼吸をする蓬莱さんを、俺は非現実的な物でも見ているかのように見守るしかなかった。
幸い近くの大学病院に受け入れてもらえ、手術室へと連れて行かれる蓬莱さんを呆然と見つめた。
芹沢からどこにいるのかと電話がかかってきて、病院名を伝えると芹沢はすぐに現れた。それと同時に手術室から医者が出てきて、鋭い目付きで俺たちを見据えた。
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