アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
107
-
(Side:雅)
自宅に帰ってきて、父さんの胸で散々泣いてもなお涙は止まらなかった。仏壇の前で手を合わせ、写真の中で微笑む母さんの顔をじっと見た。
突然直面した母さんの死。今でこそ母さんがいない生活が当たり前になったけど、10歳の頃に亡くしてから、今でもたまに夢を見たりする。運び込まれた病室で見た母さんの顔は、どこも怪我をしていないように見えた。いつも通り綺麗な寝顔のようだった。後頭部と身体は悲惨だったらしいが、不思議なくらい顔には怪我をしなかったらしい。
それでいて違和感。睫毛一本動かない、まるで置物のような母さんの姿が、俺にはショックでならなかった。あの時は龍弥を支えることで頭がいっぱいで、泣きたいのに涙がでなかった。今回は、止めたくても止まらない。蓬莱さんが、死んだら......
まだ死ぬと決まったわけではない。それに、今一番苦しいのは蓬莱さんだ。俺はなるべく、いつも通りに過ごせるようにしようと心に決める。笑って、側に寄り添って、支えてあげる。
「母さん......俺、お嫁に行くことになっちゃった。ふふ、おもしろいでしょ......」
返事のない仏壇に話しかける。それでも、明日にはここを出ていくから。
「蓬莱雅になったんだよ......明日から、蓬莱さんの家に行くよ。龍弥は仕事で大阪だし、父さん一人で大丈夫かな......埃積もっちゃったら父さんのせいだからね......」
母さんに挨拶を済ませると、俺は必要なものをキャリーケースに詰め込んだ。大体のものは蓬莱さんの家で揃えられるだろうが、当面必要そうなものを詰めていく。それも終わって自室で一人いると、静寂と外の闇が不安を掻き立てた。一度感じると不安はどんどん大きくなって、居ても立ってもいられなくなって蓬莱さんに電話することにした。
『もしもし?もう帰宅したかな』
「蓬莱さん......蓬莱さん」
電話口の声だけじゃ、元気だった頃と何ら変わりない。いつもの声に安心するも、また涙が溢れてきた。
『どうしたの、雅くん』
「蓬莱さん......ひ、うっ......」
『泣かないで......大丈夫、俺はまだまだ元気だよ。そう簡単に死にゃしないさ』
「うん......っ」
『愛してるよ、雅くん。俺の全てできみを幸せにしよう』
「んっ......蓬莱、さん」
『何もかも俺に委ねて......』
「うん......っ、うん、俺も、蓬莱さんのこと、幸せにしたい......」
『嬉しいね。今でも十分舞い上がりたくなるくらいだよ。今が人生で一番幸せだな』
「......だめ、まだ、初夜を迎えてない、でしょ」
『はは、そうだった。明日が俺と雅くんの初めての夜だ』
「うん......ドキドキする」
『たくさん愛してあげよう。だから今日はもうお休み』
「ん......」
『愛しているよ。雅......』
蓬莱さんの声はとても優しくて、俺の不安を少しだけど和らげてくれた。
「蓬莱さんも寝て......一緒に寝よ......」
『あぁ。おやすみ、雅。側にいるから』
「おやすみなさい......また、明日......」
ちゅ、と電話越しにキスする音が聞こえた。俺も通話口に唇を当て......気づいたら、眠っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
109 / 214