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(Side:雅)
最後のステージの日が来た。今日まで、一豊さんは特に体調を悪くさせることもなくいてたように思う。今朝も二人でゆっくりとブランチを食べてから、夜の仕事のためにのんびり過ごしていた。
「一豊さん」
「なんだい、雅」
「ううん、呼んでみただけ」
一豊さんは静かに笑って頭を撫でた。
思えばこの2週間、ずっと寄り添って過ごしていた。離れると言えばトイレに行く時と料理する時だけだ。あとの時間は、セックスしていなくても常に身体のどこかを触れ合わせていた。
俺は、椅子に座る一豊さんの膝に頭を預けているのが好きだった。床は冷たいから隣に座ればいいと言われても、こっちの方が落ち着くのだ。そうすれば一豊さんは、猫の背中を撫でるように俺の頭を飽きずにいつまでも撫でてくれた。それが気持ちよくて好きだった。
誰にも会わない日々。世界はこの広い屋敷の中だけにあった。それでも飽きることない様々なものがここにはあって、毎日穏やかな気持ちで過ごしていた。
一豊さんは、毎夜甘く優しく愛してくれた。俺も同じだけ返した。一豊さんはいつも、幸せだと言ってくれた。俺にはそれが嬉しかった。
「一豊さん」
「うん?」
「見て、木蓮が咲き始めた」
「ほんとだ」
「もっと暖かくなったら、庭でピクニックしたいな」
「ああ、いいよ」
「約束ね」
「あぁ」
この平穏がいつまでも続くような気がした。そのくらい、一豊さんには病気の気配を感じなかった。もしかしたら、ガンは消えてしまったんじゃないだろうか。それか、ぴたりと成長を止めてしまったんじゃないだろうか。そんな気がした。こうして、春が来て、夏が来て、冬が来て、また春が来るのを、この先もずっとずっと一緒に見られる......きっとそうだ。
「雅、おいで」
一豊さんがそう言った時だけ、ソファーの上に座る。そうすればふわりと抱きしめてもらえて、唇が重なる。
「ん......」
「愛してるよ」
「俺も......んっ、ぁん......」
「そろそろ支度しようか」
「......ん」
一豊さんがこの日のためにと用意してくれた衣装が部屋の片隅に置かれている。
最後の舞台。
最後......だけど、それは舞台の上だけのこと。俺と一豊さんの生活は、まだ始まったばかりなのだから。
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