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(Side:東雲博之)
遺産相続諸々の件で相談があるから来い、と突然呼び出された。俺が行っても仕方なかろうとは思ったが、弁護士は別で呼んでいるという。俺を呼ぶということは雅に関わることだろうと思い、俺は約束通り言われた時間に蓬莱邸を訪れた。
数週間ぶりに来たが、まず庭がちゃんと庭になっていた。良く見ると大きな池もあるし、四季折々の植物があるのが分かった。雅がさせたのか、雅のためにしたのかは知らないが、ともかく雅に対して金を惜しまないところだけは相変わらずだなと思った。
門をくぐり玄関まで歩いてきたところで雅が現れた。先週もイベントで会ったばかりだが、またさらに疲れたような顔をしていた。雅自身は隠せているつもりだろうが、親の俺の目は誤魔化せない。とは言え、ここで言及しても仕方がない。
蓬莱さんは、ここのところ肺が悪くなってきているのか咳がよく出ると言っていた。姿を見せるや早速噎せていて、雅が心配そうに寄り添っていた。それだけで分かった。雅の献身ぶり、ではない。雅の、どこか虚ろな瞳。俺さえ見たことがない、ゾッとするような......それはそれは、甲斐甲斐しく蓬莱さんだけを愛していると自分に暗示をかけているとも見れる、まるで人形のような姿だった。
「......不甲斐ないね」
俺と二人きりになって、蓬莱さんはそう呟いた。
「欲しかったものを手に入れて、思ってたのと違って嫌になりましたか」
「まさか。思ってた以上さ。それよりも俺の中にこんなにも良心があったことに、自分でも驚いてるよ」
「全くですね。まぁ、あんたが雅にまでその他大勢と同じ扱いをしていたなら、そもそも認めてませんけどね」
「いやはや......きみはやっぱり腐っても父親だね」
「一言余計ですよ」
今の雅の中に、龍弥や成宮への想いはないのだろう。......いや、自ら鍵をかけてしまったのだ。死にゆく蓬莱さんに全力で尽くすために、何もかも捨てようとしている。そんな風に思えた。
「俺が死んだら、おまえの息子に戻してやりたい」
「......とことん自分勝手な話ですね」
「わかってるさ」
蓬莱さんはどこか遠くを見つめている。その先には恐らく、死しかない。
「死ぬ間際になって、こんなにも難しい問題に直面するとは思わなかったな」
雅を幸せにしてやりたいと思っているのは本心だろう。それが叶えられないことに、嘆いているのだ。ようやくこの人の人間らしさを見た気がする。あと少し、このオッサンのわがままに付き合ってやるか......そう思うしかなかった。
「俺は結局、金しか残してやれない」
「......それで、あんたが死んで雅を東雲姓に戻して、それからどうするつもりです。まるごと俺に押し付けるつもりですか」
「......彰吾を帰国させる。あいつにも、いい加減話しておかねばならんだろうからな」
「......それで?」
「あいつにもいくらか遺すつもりでいる。あいつが......雅を諦めていないなら」
「師匠の尻拭いまでさせるんですか。だからあいつにゃ早く俺に師事しろって言ってやったのに。......で、成宮が雅を忘れてたら?」
そんなことはあるまい。あいつが帰ってくれば、きっとまた雅を救ってやれる......そう考えている辺り、俺も父親として不甲斐ないとはわかっているけど。
「......龍弥くんは、今は?」
「さて、音信不通ですね。蓬莱さんならサクッと見つけられるんでしょうけど、さすがに放っておいてください。あれは、自分で考えることですから」
「......すまない」
「......簡単に謝るとか、あんたらしくないですよ」
雅のことになると本当に人が変わる。......いや、死を目の前にしているからかもしれない。人に頼ってでも雅の幸せを考えてくれているなら、責めるわけにもいかなかった。
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