アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
145
-
「もし......子供に名前をつけるなら、なんてつけたい?」
「名前?そんなこと考えたこともないな......」
「女の子と男の子、どっちがいい?」
「そうだね......雅に似た女の子がいいかな」
「ふふっ」
ありえない話、考えても無駄なこと......けれども雅とベッドの中で尽きることなく話をしていられるだけで幸せだった。
「俺は、一豊さんに似た男の子がいいな」
「長男には一という字を入れるのがお決まりだったな」
「じゃあ、お父様やお爺様も?」
「一茂、一正......だったかな。古いだろう」
「ふふふ。でも、一豊さんって素敵な名前」
「一番豊かにあれ、ってな。まぁ名前の通り生きてこれたよ。そうだな......一希、とか」
「かずき?」
「希望の希で一希。俺の希望だ......永遠に、雅と共にありたいと願う。はは、ありきたりだな」
愛しい子と家族になる......東雲の元に返すと言いながら、叶うなら永遠に俺のものであってほしいと望んでしまう。俺が死んでも子供がいれば、俺と雅の縁は切れない。夢の、希望だ。
「ううん......いい名前。一希......」
雅が口にするだけで、まるで存在するかのように感じた。
「俺と、一豊さんの子供。特別な家族......幸せ」
「......愛してるよ」
「愛してる......」
雅は想像でもしているのか、目を閉じて仄かに微笑んでいた。そのうちに規則正しい呼吸が聞こえてきて、眠ってしまったのだとわかる。
「おやすみ、雅」
それに、一希。俺は心の中で夢の子供の名前を囁いてから、これからのことを考える。
雅は、俺と共に死のうと考えているのかもしれない。夢の子供を抱いて、俺と共に終わろうと......想像するだけでも幸せだ。俺にとってはこれ以上ない終わりだ。全てを手に入れる。
しかし、それだけはいけないと、俺の中の理性が止める。この子だけは逝かせてはいけない。或いは......この子が俺と同じ歳だったなら連れていったかもしれない。俺がついてきて欲しいと一言言えば、躊躇いもせずに「はい」と答えて笑むだろう。
ただ、雅はまだ若い。父親さえ、俺より十も年下なのだ。あいつから雅を奪うことだけはできないと思う。
俺はもう十分すぎるほどに夢を見た。俺に子まで残してくれたのだ。幸せな家族を。けれど、俺が死んだ後雅の家族であるべきは俺ではない。
『彰吾を......本当におまえの息子にしたらどうだ』
さっき、東雲に提案した。東雲は彰吾を気に入っているし、前から自分に師事すればいいと言っていた。縄師としても父親としても、俺なんかより遥かに彰吾自身も慕っていた。
『あんたは人の人生を勝手に決めすぎなんですよ』
『3日後、彰吾を呼んだ。全て話してあいつに決めてもらうけど、おまえを頼ってきたら受け止めてやってほしい』
『そりゃ、あいつから来たら......俺はできる限りのことはしてやりますけど』
『雅を東雲に戻して、彰吾と上手くやってくれたらおまえも安心だろ?』
実際は弟の問題もあるから彰吾を東雲の籍に入れるかは俺が口出せることでもないが、そうして雅が心から安らげる家族を作ればいいと思う。雅は家族というものが好きだ。優しかったという母親を今でも大切にしていて、何だかんだと言いながらも東雲のことも父親として信頼している。そこに彰吾がいて、弟とも和解すればこれ以上のことはない。
雅の肩を抱いて、髪に口づける。この関係は死ぬまで。俺が死ぬまで、あと数週間だけ、夢を見させてくれと心の中で祈った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
147 / 214