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蓬莱さんとの出会いから今までのことが勝手に思い出される。どれもこれもろくな記憶はない。アート緊縛なんて馬鹿馬鹿しいと笑われた。緊縛の真髄をわかっていないとかなんとか。会う度に俺を貶すくせに、気がつけばいつも隣にいた。国内外、仕事を抜きでも一緒に飛び回って、あっちこっちの旨い酒をたらふく飲んだ。
女も男も、マゾの人間も飽きたと言って俺を抱いた。めちゃくちゃムカついて抱き返したのに、あの人は笑っていた。
『きみは本当におもしろいねぇ。最高だよ』
俺が噛みつき返す度に楽しげにして。けれど俺と蓬莱さんの間には愛だの恋だのそんな感情はなかった。友情なんて可愛らしいものでもない。あの人との関係には名前をつけることができない。ただ、あの人が死ぬ......そう思うと、何故だか泣けてくるくらいには特別な存在だった。
当たり前に存在した人がいなくなる......だだ、それが嫌なだけだと自分に言い聞かせた。
どのくらい時間が経ったのだろう......元々薄暗い廊下はさらに暗くなっていた。そして突然聞こえる、雅の悲鳴にも似た声。
「愛してる、愛してる、愛してるから......っ」
それだけで、あの人が逝ってしまったのだとわかった。雅は愛してるという言葉だけを繰り返し叫んでいる。......良かったな、蓬莱さん。雅は間違いなくあんたを愛してる。本当に全部手に入れやがった。でも、死んでしまったらあんたも手が出せない。
雅の幸せは、雅自身で掴み取ってもらう。そのためには、生きてなきゃ始まらない。俺は手を差しのべるだけだ。父親ができることなんて、それくらいなのだ。
蓬莱さんから頼まれていたことは全て引き受けてやろう。そうすることが俺からの手向けだ。
リビングに続くドアを開く。ぶわっと風が吹き込み、部屋中に桜吹雪が舞った。その真ん中で、夕陽に照らされながら泣き叫ぶ雅と、蓬莱さんの躯が横たわっていた。
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