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長いフライトの後、名古屋に着いた俺は休む間もなく蓬莱さんの自宅へと向かった。東雲さんから電話をもらったのがこっちの時間では昨日の昼間のはずだ。今は8時......間に合うだろうか。
タクシーが住宅街の中を進んでいく。一際でかい屋敷が見えてきた頃、門のところに別のタクシーが止まっているのが見えた。そこから人が降りてきて、行ってしまったタクシーの後に俺の乗っているタクシーが止まった。
「おー、彰吾くん、久しぶりだねぇ」
「芹沢さん......ご無沙汰してます」
「1年でえらく男らしくなったじゃん。うわー、日本帰っておいでよ、俺と一儲けしようよ」
芹沢さんがばしばしと背中を叩いてくる。芹沢さんに会うのも本当に久しぶりだ。懐かしさが胸に広がる。しかし、口調とは裏腹に芹沢さんの表情は暗い。
「......蓬莱さん、昨日の夜亡くなったんだってな」
「......っそ、です、か......」
「昨日の夕方......だったかな。東雲さんの話だとね、雅くんに看取られて、ものすごく穏やかな顔で逝ったそうだよ。......雅くんは、わかっていたこととはいえショックだろうね......。しっかり慰めてやれよー」
「......」
......間に合わなかった。いや、間に合っていたら間に合っていたで、来るなと言われてたからどのみち最後に顔を見ることは叶わなかっただろう。
「あ、芹沢です。丁度入り口で彰吾にも会いましたよ。......ほら、彰吾くん。行こう」
芹沢さんがいつの間にか開いた門の向こう側にいて俺を呼び掛けた。
「......彰吾くんだってショックだよね。あんな人でも......彰吾くんには大事な師匠さんだったもんね」
「......っ」
泣くまいと思っても、涙が溢れて止まらなかった。唇を噛んで、袖で涙を拭う。
思えば俺は、あまり人の死に立ち会ったことがないのだ。
父親は知らないうちにいなくなっていたし、親戚なんかいたのかも思い出せない。母親は......どうなったか知らない。生きていようが、死んでいようが、たぶん、死んでても何の感情もわかない。
蓬莱さんは確かに鬼畜だし、怖かったし、苦手だったけど......本気で俺を見放したことはなかったんだ。ただの気まぐれかもしれないけど、ずっと面倒見てくれたんだ。こんな、何も持たない俺のことを。
「もう少し泣いときな。雅くんの前では、男前でいなきゃだろ?」
「うっ......うぅ、ずんません......っ」
そうだ。雅......
きっと今頃泣いてるに違いない。俺が泣いてる場合じゃない。俺は雅を、何としても再び凍てついてしまった雅の心を溶かしてやるのだから。
涙をぐいっと拭って、屋敷の方へ歩きだす。
「すんません、もう、大丈夫っす......」
芹沢さんは俺の肩をぽんぽんと叩くと、優しい顔で微笑んで俺の背中を押してくれた。
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