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玄関まで辿り着くと、そこには東雲さんが立っていた。前回は蓬莱さんがそこにいたのに。
「チャイムが鳴ってからなかなか入ってこねぇから、庭で迷子になったのかと思ったぜ」
「いやぁ、ほんとびっくりするようなお屋敷ですね」
「だろ。寺には電話して、住職は10時半頃来てくれるらしい」
「そうですか......とりあえず、蓬莱さんの顔を拝んどこうかな。お邪魔します」
俺は東雲さんには会釈だけして、芹沢さんの後をついていく。東雲さんも、俺の肩をぽんと叩いてくれた。
屋敷の奥の部屋に案内される。全体的に洋風の建物の中で、この襖だけが異様な感じがした。
「......おはよう、雅くん」
先に芹沢さんが入った。芹沢さんの背中越しに、俯く雅が見えた。ゆるりとこちらを振り向いて、三つ指をついて頭を少し下げた。黒のニットと黒いパンツに身を包んだ雅の肌が、いつにも増して白く見えた。
「......ご無沙汰してます。今、お茶を出しますね」
「いや、お構いなく。それに、蓬莱さんの顔......見てもいいかな。はは、蓬莱さんは嫌がるだろうけど」
雅の傍らには白い塊。横たわった蓬莱さんの躯だ。雅がそっと顔の上の布を取った。
「......一豊さん、芹沢さんが来てくれたよ。......彰吾も」
雅は、まるで蓬莱さんがまだ生きているかのように話しかけ、頬を撫でて口付けていた。膝をついて蓬莱さんの顔を覗き込む芹沢さんの隣に並んで座る。そして目にした蓬莱さんの姿は......とても穏やかな表情で、満足げに微笑んでいるようにも見えた。
「蓬莱さん......良かったね、ほんっと幸せな人生だったろうね。ゆっくり休んでくださいね......」
芹沢さんは一言そう言うと、立ち上がって東雲さんと話を始め、二人は出ていってしまった。部屋の中には今、雅と俺と、蓬莱さんの躯だけだ。
「彰吾も......一豊さんの顔、見てあげて」
雅の視線が俺を向くことはなく、俯いたまま促された。
「あ、あぁ......」
蓬莱さんの前に座り、すぐ隣にいる雅を横目で見た。恐ろしいほど美しい横顔だった。良く見れば目は真っ赤で腫ぼったく、頬には幾筋も涙の後がある。悲しげな表情が、ゾクゾクするほど綺麗だと思った。
でも、例え綺麗だろうとも、こんな顔させたいわけじゃない。それはきっと蓬莱さんだって同じはず。雅に惚れた男は皆、雅を幸せにしてやりたいと思うのだ。花が咲くような綺麗な笑顔を見たくて。
蓬莱さん、雅は......俺が幸せにします。
眠る蓬莱さんの顔をじっと見て、心の中でそう伝えた。
「あの、さ......雅ちゃん」
「彰吾も、ご住職がいらっしゃるまで芹沢さんたちと待ってたら。たぶん、応接室にでもいてるだろうから」
「雅ちゃんは......」
「一豊さんと二人きりにして......出てって」
雅に拒否されたのは初めてのことだった。雅がまだ俺を好きでいてくれてるなんて......なんでそんなこと思えたのだろう。今、雅の瞳には蓬莱さんしか映ってなくて、ここに来てから一度だって俺とは目を合わせてくれない。
「出てって......出てってよ」
はらはらと涙を流して蓬莱さんの躯に抱きついて俺を拒む。
「......ごめん」
俺は謝ることしかできず、部屋を離れた。
俺には......もう、雅を救うことなんてできないような気がして、心が重たく暗くなっていった。
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