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火葬場へ向かう車の中でも、雅はずっと泣いていた。あの一瞬、俺をすがってくれたようにも見えたのだがすぐに振り払われてしまい、今は東雲さんに抱き抱えられている。静まり返った車の中で、雅のすすり泣く声だけが続いた。
「雅、着いたぞ」
ほとんど抱えられるようにして車を降りた雅は、ふらふらとした足取りで今にも倒れそうだった。
「雅ちゃん」
見ていられなくて腰を抱くように支えた。また、小さく首を横に振る。
「......離して」
「倒れそうだった」
「父さん......」
雅は頑なに俺の手を振り解こうとしているが、今度は離さなかった。雅の力は弱くて、俺の腕から抜け出せずにいる。力ずくで取り込もうなんて、狡いとは思いながら。
「離して」
「俺を利用すればいい。雅が必要なだけ側にいてやるから!都合のいい男でいいから......、っ!」
もう惚れてくれなくてもいい。取り繕った仮面を被ったまま俺の手を取ったあの頃みたいに、俺を利用してくれたって良かった。それで雅が少しでも寂しさをまぎらわせられるなら、俺は龍弥の代わりでも蓬莱さんの代わりでもいい......そう思ったのに、雅に突然頬を打たれた。
「彰吾なんかいらない......っ!」
大粒の涙をぼたぼたと溢しながら、そう叫んだ。そして縺れる足で蓬莱さんの棺まで駆け寄ると、それからはもう、俺を見ることもなく、まるで蓬莱さんの魂が雅を囲ってるかのように、俺は指一本雅に触れることができなかった。
「......彰吾くん。今のは、彰吾くんが間違ったんじゃない?......いや、雅くんの言い方も悪かったけど、今は雅くんの気持ちを汲んであげなきゃ」
東雲さんが雅を支え、俺はその後ろ姿を呆然と見ていると芹沢さんにそう話しかけられた。
「俺の......何が悪かったんすか」
「昔、雅くんが彰吾くんと付き合う宣言した時は、まだ女王様の姿しか見せてなかっただろ?でも、あれは雅くんの強がってるだけの姿じゃないか。本当は雅くんがどんなに優しい子か、それは彰吾くんが一番よくわかってるんじゃないの?」
「......そりゃ」
どんな時だって優しい雅が、俺をここまで拒絶したということ。......もう、望みなんかないとしか思えない。
「アンバランスな雅くんは本当に綺麗だよね......また、あの不安を隠して女王の仮面を被ったら、どんな姿になるのか想像しただけでゾクゾクするね」
「......」
「でも、彰吾くんに愛されてた時がなにより綺麗だったよ。......さぁ、鬼畜先生と最後のお別れのようだよ。行こうか」
あまりにも小さな葬式だ。坊さんがまたお経を読む。雅は、声をあげてしゃくり泣いている。
俺は、どうすればいいのだろうか。その肩を撫でることもできず、箱の中の師匠にすがるように目を向けてみても、師匠もまた、なにも答えてはくれないのだった。
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