アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
197
-
(Side:彰吾)
雅とはろくに話せないまま、俺はまたアメリカに帰った。今回は、飛行機の隣の席は誰もいなかった。また陽気なアメリカ人でもいればいいのに......と思ったが、俺はただ空を眺めながら師匠と雅のことを考えた。
白い骨だけになって、完全にこの世から消えてしまった師匠。あの皮肉な顔も鬼畜な笑みもすぐにでも頭の中に思い浮かべられるのに、もう二度と見ることは叶わない。いつでもお洒落で、優雅な人だった。怖い人だったけど、俺にとっては憧れだったところもある。俺はバカで学もない。顔と体型は悪くないとは思っているが、それだって三十路が近づいて色々気になるところも出てきた。蓬莱さんや東雲さんのようにかっこよく歳を取りたいと思う。
それにしても雅は......驚くほど歳を取らない。初めて会ったのが22の頃で、もうすぐ27になるはずだ。まだ老ける歳ではもちろんないが、きめ細かい透明感のある肌は、東雲さんの最初の写真集の頃から変わらない。10代のような瑞々しさの中に、ほっそりとした輪郭が大人びているようにも見えて、そのアンバランスさが雅の魅力だった。そして、27歳になってもなお女性と見まごう美しさも健在だった。
伸びた髪が本当に綺麗だった。艶やかな黒髪。そこへ口づけたい衝動を何度抑えたことか。掬い上げればきっと指の間をするりと撫でて落ちていくのだろう。
「......雅」
思わずその名を呼んでしまう。俺の細胞全てが雅を求めているようだ。
雅、雅、雅......
今すぐ飛行機から飛び降りてでも雅の元へ飛んで行きたいくらいだった。しかし、駆けつけたところで俺には何が出来るだろう。オロオロとつきまとって、雅に嫌われて途方にくれるしか未来が見えない。
あるいは、時間が解決してくれるだろうか。蓬莱さんは、帰ってこない......いつか、雅の中でその事が受け入れられたら、また俺を思い出してくれるだろうか。
今はまだ、蓬莱さんとの時間だ。雅の心が落ち着いた時、また初めからやり直そう......
結局、俺はそう心に決めて、しばらくは考えることを放棄した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
199 / 214