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それから、俺は毎日1人で記憶を辿った。
記憶が見える度にクレヨンで紙へそれを描いて繋いだ。
赤い何かと、床へ広がった髪の毛。
それから誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それ以外はまだ思い出せてなかった。
部屋中に赤く塗られた画用紙が散らばっていたせいで、大人は俺を気味悪がって近付かなくなった。
食事の時も、入浴の時も、大人は俺をまるで見えないみたいに扱った。
俺は 自分の記憶が自分を殺していくような気がしていた。
そんなある日だった。
「ユキ君、今いいかな?」
そんな声が聞こえて部屋の扉が開く。
久しぶりに名前を呼ばれたような気がした。
俺は赤いクレヨンを握りしめたまま真っ直ぐ前を見つめた。
大人の横には小さな子供。
茶色い髪に金の髪が混ざっていて、顔は包帯で半分隠れていた。
「この子は要くん。今日からユキくんと同じ部屋で暮らすの。」
「…はい。」
「それじゃ、夕飯の時間になったら食堂まで案内してあげてね。」
「はい。」
それだけ言うと大人は逃げるように部屋から出ていった。
この子供も、いつかきっと俺を嫌う。
それなら最初から必要最低限しかかかわらない方がいい。
そう 思っていたのに。
「初めまして、僕は要。君は…ユキ君?よろしくね。」
「…あぁ。」
「何描いてるの?僕も絵は得意なんだよ!」
「何も描いてない。」
「えぇ?それじゃー僕が当ててあげる!うーん…真っ赤なりんごだね、とびきり甘いの。」
「違う、きっと違う。」
「それじゃ、サクランボかイチゴだね!ね?きっとそうさ。」
要、と言ったその子供は。
その子供だけは。
俺に笑いかけては楽しそうにそう話した。
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