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多賀さんがこの路線を運転しなくなって早一ヵ月。
代わりに、この路線に来たのは豪快な運転と、豪快なアナウンスのおじさんだった。
ーグラッ…ガクンー
「わっ…」
車体が大きく揺れ、俺は思わず座席の取っ手を掴んだ。
決して人が悪いわけでは無さそうなんだけど…乗り心地も声も、どうしても多賀さんと比べてしまう。
「はぁ…」
俺は窓へ頭を傾け、目を閉じながらため息をついた。
ーガタン…ゴンッ!ー
「痛って…」
車体が揺らいで、頭を思いっきり窓にぶつけてしまい頭を擦りながら運転席をジロリと睨んだ。
だめだ。やっぱり俺、多賀さんに会いたい。
会えなくなってから時が経つほど、俺の中で多賀さんの存在が、どんどん大きくなってる気がする。そして、胸の中にぽっかりと空いた穴も、一緒に大きくなって行く…
こんな事なら、せめてどこの路線に変更になるのか聞くんだったな…
『はい、終点でーす』
おじさんの声で席を立ち、出口へと向う…
「あ、あの…」
『ん?何か?』
怪訝そうなおじさんの顔に一瞬怯んだけど…
「前にこの路線のバスを運転されていた多賀遼一さんって、今どこの路線に行かれたか分かりますか?」
意を決してそう問いかけた。
『えーとね、多賀君なら確か…』
その日、俺は多賀さんが今どこの路線でハンドルを握っているのかを知った。
もしも会えた所でどうするのか…そんな事、自分でも分からない…
ただ、知っただけで少しだけ多賀さんに近付けた様な気がした…
今日は休日。友達と遊んだ帰り、気付けば俺はバスセンターで、いつも乗るバス停には向かわず、多賀さんの路線のバス停を探していた。
あ…俺がいつも乗るバス停の反対側だったんだ。
一度も行った事の無い町へ行くバス。
もうすぐ家まで帰るバスが来る時間。
俺は交互に、二つのバス停を見つめていた。
そして…
『北原経由桜町行きです』
家までのバスがバス停に止まり、諦めてそのバスに乗り込もうと歩き出した。
その時…
『水崎町行きです』
…え?
背後から聞き慣れた声と共に、反対側のバス停にバスが止まった。
多賀さん?
俺は慌てて振り返り、水崎町行きのバスに乗り込んだ。
いつもの、運転席が良く見える席に座ろうしたけど空いてなくて、運転席側の列の後ろの席に座った。
『発車いたします』
バスが出発する。
声を聞いて、バスに揺られてみて、やっぱり多賀さんだと確信した。
この感じ、久し振りだな…
バスが進むにつれて、窓の外は、どんどん見慣れない町並みに変って行くけれど、不安なんて無かった…
それどころか、バスに揺られれば揺られるほど、心に空いた穴が埋められて行く様な…そんな不思議な感覚と、心地よさが俺の体を包んで…
「ふあぁ…」
あくびを一つ。
ねぇ…多賀さん。
気付いてますか?
俺が、このバスに乗ってるって事…
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