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深まる謎
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携帯を見ると、時刻は午前7時だった。
ようやく止まった涙で、顔が汚れて気持ち悪い。
「ーっクソ」
ペーさんをダイニングテーブルに起き、もう一度顔を洗って、髪を乾かす。
鏡を見ると、自分の酷い顔が写り込んでいた。
擦ったからか、目の下が赤く染まり、少し腫れている。
「………」
冷やすこともせずにリビングへ戻る。ふと、一番奥にあるベッドルームの扉を振り返った。
まだエリは起きてこないー
昨日急に連れ出され、荷物は何も持ってなかったから携帯だけポケットに入れる。
静かに、音を立てないように、俺はペーさんだらけの部屋を後にしたー
ホテルを出た後、ただ周辺をぶらぶらと歩いていく。ここがどこだか分からないから、とにかく大通りを目指して進むと、しばらくしてタクシーに乗り込むことが出来た。
「おはようございます!ドア閉めますね。…お客様、どちらまで?」
「横浜まで…」
「はい!かしこまりました」
そう言うと、俺を乗せたタクシーは大通りから高速に乗って目的地まで向かっていく。
離れる夢の国を今度は振り返らず、俺はある人物に電話をかけた。
「寝てたか?」
「…起きてたよ」
珍しく怠そうな、元気のない声が聞こえる。
「なに、寝てねぇの?」
「…あはは。…まぁね〜」
いつもは元気な笑い声が、少し引きつっている。こいつがそうなるのは、大体あいつと何かあったからだろう。
「翔と、ケンカでもしたのか?」
「あははは〜…まぁ、そうだねぇ…。陸は?どうしたの」
「あ?…ああ。別に俺は何も」
「あはは…相変わらず嘘下手すぎ。…エリでしょ」
鋭い友人はすぐに言い当ててくる。名前を聞くだけで、少し胸がギュッと苦しくなってしまう。
「…秀吉、今からお前ん家行ってもいいか?」
少し控えめにそう言うと、今度は本当に笑いながら応えてくれる。
「いいよ、何時くらいに来る〜?」
「今向かってるから…8時前には着くな」
「あははは。りょーかいっ。…あれ?陸、今どこにいるの?」
電話越しに車の走る音が聞こえるんだろう。
首を傾げて問いかけてる光景が目に浮かんでくる。
「……ちょっとな。とりあえず、着く頃また連絡する」
「は〜い、待ってるね〜」
そう言って秀吉が電話を切る。流れるような景色を横目に、深くシートに腰掛けた。
目を瞑ると心地よい振動とは裏腹に、あいつの言葉とカーテン越しの姿が浮かび上がってくるー
『陸…ごめんね』
何について謝っているのか分からない
でも、知る必要も、俺にはないー
欲しがってはいけない。欲なんて、あったら面倒になるだけだ。俺は今まで周りを見てそう感じてきた。
〝三日間のゲーム〟はこれで終わりにしよう。例の動画の為とはいえ、これ以上踏み込んでしまうことに嫌気がさす。
『陸は俺のもの…俺は、誰のもの?」
これ以上…
これ以上、あいつに踏み込めば、その先にあるものなんてたかが知れてるだろ
『陸…今は俺だけを見て』
人の弱みに付け込んで遊んでいるだけだ。
動画なんてぶちまければいい。ネットでもなんでも好きにしろ。もう…やめて欲しい。
久々に泣いて…あいつのあの言葉を聞いて…
気づいちまったんだよー
自分の左頬に手を添える。
あいつがしてきたように…
触れられた感覚を、体温を、思い出してゆく
俺は…俺は…
『俺は、陸を離したりしません』
エリを手放したくなくなっているー
「…イライラするな」
あいつのグレーの瞳、赤い唇、ゆるいウェーブの金髪、白く綺麗な身体…
もうどうだったいい、ゲームなんかの為じゃなく、本心で向き合いたい。
でもその先にある〝恐怖〟
裏切られ、その度に傷つく心。
信じて、捨てられるあの感覚。
愛に飢える幼少期に沢山感じたその〝恐怖〟が、俺に纏わり付いて、囁いてくるー
「ーっ」
携帯の電源を切って、強く目を閉じる。
何も考えないように車内の音に集中していると、少ししてタクシーが目的地にたどり着いたー
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