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深まる謎
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郵送支払いにして、タクシーを降りる。
一軒家のチャイムを鳴らすと、すぐに玄関が開いた。
「あれ?早かったね。てっきり電話来るかと思って、ずっと待ち構えてたよ〜」
そう言いながら笑いかける秀吉の顔は、少し疲れている。一睡もしてないのか、目の下にクマが出来上がっていた。
「悪りぃな…電源切ってて…」
「全然いいよ、ほら上がって上がって〜」
玄関には俺が来るのを知ってか、スリッパを揃えて置いてくれていた。
秀吉は母親と二人で実家住まいをしている。
母親は外資系金融機関で働いているらしく、海外への出張が多くて、その為よく家を空けることがあると秀吉が前に話していた。
この家には〝あの家〟を避けたいときや、翔と三人で集まるときに何度も来たことがある。気がつけば〝自分の実家〟なんかより、秀吉の家の方が安心して伸び伸びできるようになっていた。
「お前ん家、久々だな」
「そうだね〜。相変わらずうちはいつでもウェルカムなんだけどねぇ」
「…母ちゃんは元気にしてるか?」
「すごく元気。今はイタリアに行ってるらしいよ〜。陸と翔に会いたがってた」
たまに顔を合わせる秀吉の母親は、会うたびに俺と翔と話したがって秀吉の部屋に乱入してくるような人だ。
「ガキんちょども、エロ本ばっか見てんじゃないよ〜!」と、少々口は悪いけど、本当はすごく優しくて、面倒見のいい、息子想いの母親である。
「あ!そうだった…。今、うちの家お茶しかないんだよ〜」
そう言いながらキッチンの冷蔵庫を開けて、秀吉が「ああ〜」と唸っている。
この家の仕来りなのかなんだか分からねぇが、必ずいつもジュースやお菓子を用意していて、家に来た人に少しでも居心地よく過ごしてもらえるように準備をしてくれていた。
「ちょうどお茶が飲みたかったからそれでいい」
「そう〜?…じゃあ、ちょっと待ってね〜」
秀吉のそういう所は母親にそっくりだ。あの強い母ちゃんの血を、完全に受け継いでいるなとこういう時によく感じる。
受け取ったお茶を持ち、向かい合うようにソファに腰をかけた。
最近は殆ど一人だと言っていたのに、部屋は綺麗に片付いている。
「全然寝てねぇんだろ。どうしたんだよ」
座ってからなかなか話出さない秀吉に、俺から問いかける。
そう言うと秀吉が少し笑って、急に立ち上がった。冷凍庫からアイスノンを取り出し、タオルを巻いて渡してくる。
「…はい。…陸こそ、目の下少し赤くなってるよ」
冷やすために渡してくれたそれを受け取る。
当てるとじんわりとした冷たい感触が火照った熱を奪い気持ちがいい。
「エリとなんかあった?」
微笑みながらそう聞かれると、答えざるおえない。突然押しかけてきた俺に、自分のことを後回しで優しく聞いてくる秀吉は本当に強いと思う。
「…色々、ごちゃごちゃになって…。なんつーか、よくわかんなくなってるんだよ」
ポツリポツリと俺が話し出すと、秀吉が合間よく静かに頷きだした。
「とにかく怖くて…。あいつとは会ったばかりで、お互いよく知りもしねぇし…。まだ会って少ししか経ってねぇけど…秀吉とか翔とは違う感じがするっつーか…一緒にいたいけど、離れたいっつーか…」
「うん…なるほどね」
「お前らとは一緒にいてすごく楽しいし、…気持ち悪りぃかもしんねえけど安心するし…。俺にとって初めてできた友達が、秀吉と翔だったから、他のやつはよくわかんねぇけど…その…ムカムカする…」
秀吉に今の気持ちを話すたび、あいつの姿が浮かび上がってくる。ホテルに置いてきてしまったが、今は正直…会いたくない。
一口お茶を飲み、どう言い表せばいいのか考えていると、秀吉が首を傾げて聞いてきた。
「陸はさ、俺と翔のこと、どう思ってる?」
よく意味が分からない質問に、なんて返せばいいのかとだまる。
秀吉と翔ー?
「あ…?それは…お前らは友達だって…」
「うん。じゃあ…俺と翔の三人でいる時、今みたくムカムカする?」
ムカムカ…
ケンカは高校の時にたまにしたけど、それはケンカしているからであって…
こうして一緒に過ごしたり、遊んでいる時は別に普通だし…
「…しねぇな」
「だよね。俺も陸にそういうのは全くない。…じゃあ、エリの存在ってのは、陸にとって全く、違うものなんだと思うな」
違うー
秀吉と翔とは違う、エリの存在ー
「よくわかんねぇよ」
「陸…エリのこと、知りたいんじゃない?」
「それは…別に…」
「じゃあ、エリがカナダにいる時、どんな女の子と付き合っていたのか…気にならない?」
どんな女と付き合っていたかー
「…………」
じわじわと、また胸の奥が締め付けられて苦しくなってくる。
お淑やかな女か、美貌に満ちた女か…はたまた積極的な女か。
あいつの隣を歩く女を片っ端から想像していけば、締め付ける力がどんどん強まってゆく。
知りたくない、俺には関係ないー
「………」
グレーの瞳が誰を写し、白い手が誰を掴んでいたかー
「…………」
あいつの赤い唇も、胸の辺りから漂う甘く魅惑な香りもー
「ーならねぇ」
「…陸?」
少し高めの声が、他の誰かのものであったなんてことー
『陸…おいで…』
そんなものー
考えるだけで、内側から、何が込み上げてきそうになる
「ーっ気になんかならねぇよ」
ぐっと手に力がこもる。この感情はなんていうんだろう…
踏み込むのが怖くて、でも離したくなくて…
〝三日間だけのゲーム〟
その後は、ただの他人ー
経験したことのない感情がグルグルと渦を巻いてゆく。自然と眉間に力が入り、視線が下に下がっていく。
グラスに注がれたお茶を眺めていると、秀吉が静かに口を開きだしたー
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