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胸に閉じ込めて〜エリside〜
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「事務所には日本に着いてすぐ顔出しに行っといたよ。まぁ…昨日の朝、早速仕事だったけどね…」
「ええ、私もさっき行って来たわ。昨日のもなかなか好評だったみたいね…。エリ、少しの間…今まで以上に忙しくなるわよ」
「…分かってるよ」
そう答えると、今後の予定についてケイトがスケジュール帳を開いて確認する。
びっしりと書かれたそれを見ると
明後日から分刻みのスケジュールが組み立てられていた。
「休みは取り敢えず今日と明日ね、他に休みたい時あったら…って言っても難しいわ」
「うん、仕方ないよ。幸い時差ボケも無いから体調いいし…大丈夫」
「え?え?!エリくん、そんなに忙しいの??僕せっかく日本に来たんだよ?!エリくんと〝二人だけ〟で観光したいのにぃ」
「だからエリは仕事で来たんだって言ってんでしょ!」
「ごめんねアラン。すぐは難しいけど…約束するから、行きたいところ考えておいて」
そう宥めれば、隣に座るアランが目をキラキラと輝かせて「ほんと!?エリくんとデートできるの!?!?」と、更に腰に強く抱きついてきた。
「うん。約束は守るよ」
そう言って頭を撫でればキャッキャと小さな子どものように喜ぶ。
「やたーー!!エリくんとデート!エリくんとデート!!」
「はぁ…もうどうにでもなっちまえこの兄弟」
完全に呆れ顔でため息をつくケイトが「あ、あとこれね」と思い出したかのように
一枚の用紙をテーブルの上に置いた。
「え…これって…」
その紙には予想もしていなかった事が書かれていて思わず固まる。
「ケイト、ここまでやるとは俺言ってないよね…?」
「でももう決まった事なのよ。折角日本に来たんだもの、これくらいやってもらわないと!ちゃんと目、通しといてちょうだいね」
「でも俺にはっ」
「大丈夫よ!色々手配してちゃーんとサポーターも付けるし!本当に休む時間ないんだから…期待の王子様、頼むわよ〜!!」
「王子様……って……」
用紙を手に取り、内容を確認し直す。
無理だこんなの、やりたくない
今までも何度かこの手の仕事の話は来てたけど、そこまでやるつもりはないとケイトを説得し続けて来た
それなのに
まさか陸のいるこの国で……
「なになにー!?!?エリくん王子様になるの!?」
「そうよ〜!!楽しみね〜!」
「さっすが僕のエリくんーっっ!!!」
ケイトとアランは俺の事はお構いなくキャッキャとその紙の内容を見て喜んでいる
盛り上がっている二人からスッと離れて
俺は一人、キッチンへ向かう
こんな仕事の姿なんてみられたくない
きっと俺は、彼さえ居なければどうでも良かっただろう
自分の仕事も生活も
必要とされれば
どんなに適当な人生でも良かったんだと思う
でも
今は俺のそんな姿を見せたくない人がいる
大切な、愛おしいー
「………陸」
ーどこにいるの
早く、早く会いたい
会って話したい事がある
謝りたい事、許して欲しい事、伝えたい事…
そして
俺にできる事なら与えさせてやりたい事もー
「ーってエリ!!あなたちゃんと聞いてるの!?この仕事は明後日からなんだから私が説明をし」
「あっ!ジュース切らしちゃったみたい…ちょっと外出てくるね!」
ー前にあの人から教えて貰った言葉が頭をよぎる
『エリ、私たちの人生というのはね
〝巡る幸と不幸〟それから〝会い離れる人〟が絡まって出来てゆくんだよ
だから、多少の不幸や別れは受け入れなくてはならない』
「っはあ!?!ちょ…エリ!!!」
「エリくん!?どこ行くの!?やだやだ待ってよ僕も行」
「ごめん!すぐ戻るから!!待ってて!」
ー急いで玄関に向かい靴引っ掛けドアを開く
『だけどねエリ…〝運命の人〟だけは手放しちゃあいけないよ。どんなに辛くても、乗り越えて、しっかり向き合いなさい。お前ならそれが出来るだろう』
「エリ!!!待ちなさいっ!!」
「エーリーくーんっっっ!!!!」
ーガチャリと背後でドアが閉まるのを聞く
エレベーターを待ってる時間が勿体無くて
階段を急いで駆け下りる
ーそうだよ
俺は、汚い手を使ってでも陸が欲しいんだ
初めからそうだったじゃないか
この仕事をしたのも
沢山の嘘を付いたのも
〝三日間のゲーム〟の為に陸に迫ったのも…
『私にもね、いるんだよ…ひとり〝運命の人〟が。今は離れ離れだけど、また会うって約束をしているんだ』
全ては、陸の側に居たいから
陸が俺の〝運命の人だから〟
『エリ。これから私が言うことで、もしかしたらお前を驚かせてしまうかもしれない。だけどね、これが…これが最後…〝私〟と〝もう一人〟の〝最後の約束〟なんだ。……聞いてくれないかね』
「っはぁ…っはぁ…」
ケイトとアランが追いかけて来てないか耳を澄ませながら足を速める
運動不足のせいか、息が上がって汗が首筋に垂れてゆく
「…陸っ……出て…お願い…お願いだから」
携帯にもう一度電話をかけてもまだ繋がらない
代わりにケイトから鬼のような電話がかかってくるけど今は無視するしかない
「…はぁ……っはぁ…」
一階まで降りてポケットから車のキーを取り出す
すると
カランっと音を立てて、何かが地面に転がった。
『この小さなガラス瓶をお前に託すよ。あとは、お前に頼む』
俺があの人と交わした最後の言葉
その時に直接受け取った、この〝小さな空のガラス瓶〟
「…………」
この為にも、俺は陸と話さなければならないー
車に乗り込み、急加速して道路に出る
翔と会った時
陸は秀吉の家に行き、その足で実家へ行ったと教えてもらった。
それなら…と
すぐに長谷部さんに電話をかけ、尋ねてみたが
「そうですね…陸様は三十分前に出たっきり、戻って来ておりません。他に行かれる所も私には…」
長谷部さんも陸がどこに行ったか知らないー
三十分前は微妙…だけど
そう遠くへは行っていないはずー
「分かりました、有難う御座います」
それだけ言って電話を切り、とにかく実家の方向へと急ぐ。
この辺は引っ越して来たばかりでまだよく分かってない
でも
「……そんなの、俺には関係ない」
他に行きそうな場所…
陸のお気に入りの場所は、カフェ…公園…繁華街…
いや違う、全部違う
考えろ、思い出すんだー
昔の陸から今の陸が 一番心安らぐのは
亡くなったお祖父さんの部屋。
それともうひとつあるはずだ
もうひとつ
そこは…
「ーっ!?もしかして……!?」
陸が大事にしている場所は、大切な人がいる場所ー
それなら彼処しかない
彼処…しか……
「…………急ごう」
俺はその目的地に向かうべく
よりスピードを上げて、陸が大事にしている〝あの場所〟へと向かって行った…
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