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消えない夜
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『こんなに大きくなって…。うん、良かった』
小さい僕に微笑みながら話してくれるこの人は『俺は佐野 隆彦、君の叔父だよ』と言った。
『叔父…さん?』
『そう。君を産んだ真由美の兄だったんだ』
そう言って微笑む隆彦さんには
僕とお揃いの目の下の小さな星型のホクロが
風で揺れた髪の隙間から見えて
『あの…』
『なんだい?』
僕は初めて会った隆彦さんに、此処へ来た理由と父の姿を見たこと
そして唯一の手掛かりだった母さんの名前を見て、思わず声を出してしまったんだと今までの経緯を説明した。
『そうか、それで一人で来たんだね』
僕のヘンテコな説明を、隆彦さんは微笑みながら聞いてくれて
『よく来たね、陸君』
初めて会う人なのに、なんだかとても心地がよくてー
『うん。君の話した通りだよ。この人が、陸君を産んだお母さん、佐野真由美さ』
『この人が…僕の探していた〝母さん〟…』
『そう。懐かしいな…あんなに小さかったのにもうこんなにか…。いま何歳だい?』
『えっと…八歳ですっ!』
『そうか…八歳かい。…ということは…あれからもう八年が過ぎたのか……』
そう言う隆彦さんの言葉は悲しそうなのに
『八年か……年月は本当にあっという間だね』
何故か表情は微笑んだまま、柔らかな表情で墓石を見つめている
ーサワサワと木々の葉が音を立て
遠くで鳴くカラスの声に、雲を切る飛行機の音…
『………』
今まで墓地は怖い場所だと思ってた
学校で流行っている怪談話とか
テレビの影響でそう思い込んでいた
けれど違うんだ
それは決して、隆彦さんと一緒だからとかじゃなくて
なんとなく
ただなんとなくだけど
こうして目を瞑ると…
ほら、やっぱり
母さんと会えている気がする
そんな温かい場所なんだー
『陸君』
『…はいっ』
突然呼ばれ、瞑ってた目を開ける。
さっきまで墓石を見つめていた隆彦さんの目は、今度は僕を優しく見つめていて
『真由美の……陸君とね、一度会って話したいと思ってたんだよ』
話したいと思っていた…
それは僕も同じだ…
もう此処には母さんはいない
だけど、その母さんのお兄さんならいる
そしてこの人は、僕の知りたくてどうしようもなかった事を知っている
教えて欲しい
僕に、全てを
母さんがどうしていないのか
どうして父さんは僕に黙っているのか
そして、ずっと母さんだと思ってたのは、本当は誰なのか…
『………そうだ…そうだよ』
僕はまだ小さい
今はまだ小さい子どもだよ
きっと世の中には、今の自分が知らなくてもいい事って沢山あるんだと思う
悲しい事や、辛い事
知らなければ傷つくこともなく
ただ何もなく
平然と今まで通り過ごしていくんだろう
けれど
いずれは知ることとなる自分の過去の事
『ん…?陸君、なんだい…?』
それに早い遅いは関係なくて
なにより
〝知らぬまま生きてゆく〟ことの方が、よっぽど〝不幸〟で〝寂しい〟ことじゃないのかー
優しく僕を見つめる隆彦さんの目を真っ直ぐ見つめ返す。
『…僕に、全部教えてください。知りたいんです、母さんの事も、僕の事も…お願いです…隆彦叔父さん』
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