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消えない夜
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それから暫くして
「…寝たな」
「…寝たわね」
お茶と言いつつ
気づけばエリの手料理までご馳走になった俺は、ケイトと二人で気持ちよさそうに眠るアランの寝顔を見つめていた。
ー時刻は二十時過ぎ
「あ〜っ……やっと静かになったわね〜」と言いながら伸びをするケイトと一緒に
エリの寝室を出て、ソファーに腰をかける。
すっかり慣れたこの空間にグダッとソファーにもたれ掛かって、深く息を吐く。
「はぁ……疲れたもう無理…すげぇな若いって…」
結局、エリに導かれるように部屋に上がった俺をアランはほっとく筈もなくて
「あら…何おじさんみたいな事言ってんのよ。愛ちゃんもアランと殆ど歳、変わらないじゃない」
エリのこんな所が好きだとかあんな所がカッコいいんだとか、同じような話を繰り返し聞かされ続け
少しでも俺がよそ見をするものならば
『僕がせっかく楽しい話してるのにいい度胸してるな…あん?ティンクルチェリーボーイよぉ』と迫られる…
そんな素晴らしく優雅なお茶会を過ごしていたー
「まぁ、一応俺の方が一つ上っすけど…。なんつうか…あんなに強烈なのは今までで初めて会ったわ」
「そうねぇ、強烈だし強行だし加えて強愛だものね」
「強愛…言えてんな…いっつもあんな感じなんすかアランは」
「そうねぇ〜…でも今日は特別しつこかったわね」
「特別…?」
そう聞き返した時、洗い物を終えたエリが「二人とも、コーヒー淹れたよ」と、ローテーブルに置いてくれた。
「あっ…俺」
タバコは吸うけどコーヒーは苦手…
そう言おうとエリを見上げれば
「愛ちゃんのはミルクと砂糖入りにしたよ」とグレーの瞳を俺だけに細めて微笑んでくる。
「……なんで知ってんだよ」
そんなこと一言も言ってないのに当てやがったエリを睨むが
ニコニコと微笑んだまま、ドサッと俺の隣にエリが座って
「ん〜…パートナーの勘…かな?」と、俺の髪を指に巻きつけてきた。
「えっ…?パートナー…って…?」
「おまっっ…!!違う、違う違うケイト!!」
咄嗟にエリの手を叩き、不思議そうに見てくるケイトに弁解をする。
「お隣さんパートナー!!そう、そういう意味だよな今のは!な、エリ!?」
「ん〜…ふふふ…そうかな?」
「そうだろ!!!変なこと言うなバカが!!!」
ーこんなの、誰かに気づかれたらマズイ……
〝三日間のゲーム〟のせいで、俺たちは今
〝恋人同士〟な訳だけど
俺にとってマズイのは、関係がバレる事じゃない
そんなのよりもっとマズイ理由
それは、この〝三日間のゲーム〟をさせられている原因でもある
あの晩、
エリにハメ撮りされた例の〝動画〟の存在ー
結局未だに消さずにいるが、まだチャンスはある。
ゲーム開始から約二日間で分かったこと…
エリと関わる度に湧き出る色んな感情や
そのせいで反応してしまう自分の身体
それに、
まだ聞けていない〝俺の家とエリの関係〟についてと〝エリ自身の謎〟
「…………」
だけど
〝知りたいことは何も言わず、
求める言葉だけは簡単に聞かせてくれる〟
それがどういう事なのか、俺は分かってしまったからー
「ズズッ」っとエリが淹れてくれたコーヒーを一口含む。
まろやかで優しい甘さが口の中いっぱいに広がり、喉を通って胸の奥が温まる感覚がつたってゆく。
隣にいるエリは、さっき俺が「バカが!」と言ったから一言も話さない。
その代わりに、コーヒーを飲む俺の姿をニコニコと見つめてきてとても飲みにくい。
とりあえず目を合わせぬよう「…美味い」とだけ言うと
俺の頭にポンっと手を置いてから
「ちょっと電話してくるね」と、部屋を出て行ってしまった。
「…………」
リビングには残されたのは
俺と、パソコンと資料を見つめているケイトの二人。
それと、少し隣に居ただけなのに微かに香る
アイツの甘い匂いと
ケイトに気づかれないように触れられていた、俺の腰に残るエリの体温…
ーやっぱアイツが求めているのは身体だけなんだな
昨晩聞いてしまったあの言葉もそう
今のだって…
本当は俺じゃなったっていいんだよなー
コーヒーカップの中で揺れる水面を見つめる。秀吉の家でもそうだった。
ジッと見つめると浮かぶ顔
それはアイツ…
なのに…
「ねえ愛ちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら?」
パソコンに何やら物凄いスピードでタイピングしていたケイトが、急に顔を上げて口を開く。
「あ?あぁ…なんすか?」
「私ね、エリとはもう随分長いのよ。かれこれ四年ねぇ…だから、アイツのことは大体分かるの」
「あー…そういえばエリが〝ケイトはワークパートナー〟って言ってたような…」
「そう。だからね、愛ちゃんとエリがそういう仲じゃないっていうの…ちゃんと分かってるわ。でも…あなたの前だと、私が見たことないエリの姿をしているのよねぇ」
「見たことない…?」
コクンと頷いてケイトが眉間に手を当てる。
悩むような、困るような…
その仕草に、俺は少し怖さを感じる。
「私の見てきたエリはね〝無〟なのよ。簡単に言うとね」
「む………???」
意味が分からず、今度は俺が首を傾げてしまう。
両手で持ったままのコーヒーカップからは心地よい温かさが伝わってくるのに、俺の心臓は少しずつ早くなってゆく。
「なんすかその…〝無〟って…」
「う〜ん…説明しにくいんだけど…。要は、〝感情のない人間〟って言ったら分かりやすいかしら?」
ー感情の無い人間……?
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