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いちごのキャンディー
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甘い香りの漂う胸に顔を押し付けられて苦しい。けれど、俺以上に苦しそうなのは何故かエリの方で…
「……なんで」
そう言っても何も言わず、エリはただ俺を強く抱きしめてくる。
「…んっ…ちょ…エリ、苦し」
「うん、ごめんね…でも、もう少しこのままでいさせて」
「な…なんだよそれ…人がせっかくいい事言ってやろうとしてたのに…」
「うん…ごめんね」
ーなんだろう
急に聞きたくないとか謝ったりとか…
やっぱり今日のエリは何かがおかしい。
今までのエリなら「俺を見てちゃんと言って」「愛ちゃん…もう一回」みたいな風に、ニヤニヤしながら喜んで俺をいじり倒して来た筈なのに…
「今日は二人だけでデートをしよっか」
抱きついたままのエリが突然、俺の耳元でそう囁く。
「あ…?…あぁ、別にいいけど」
エリの背中に恐る恐る手を回すが、さっきまでの心臓バクバクは別のものへとなってゆく。
「ありがとう、愛ちゃん」
そう言うエリがスッと俺から離れて軽くキスをしてくる。
「準備できたら言ってね、部屋に戻ってるから」
いつもと変わらない優しく微笑むグレーの瞳。何も変わってないエリの筈なのに、何処か違う感じがしてしまうのは俺の気のせいなんだろうか…
「あ…あぁ、分かった」
俺の言葉を聞くと玄関がガチャリと開く音がする。それと同時に胸がズキっと痛くなる。
さっきまでそこに居たエリが、何処か遠く感じて頭を横に振る。
「…考えすぎだろ、俺」
そうだ、気にする事ない。
単純にいまは言われたくなかっただけなのかもしれないし、例えその理由がなんだろうと、アイツは俺から遠ざかったりしない。
今日も、この先もずっと一緒いれるなら何度だって言える…ただそれだけの事だ。
「…つーか俺、アイツに準備させられたから終わってるんだった」
洗い物を終えてタバコに火をつける。
テレビをつけると朝のニュース番組がやっていた。
『今日の天気は晴れから雨っ!雨は夜から明日の朝にかけて続くので、お出かけする方は傘をお忘れなくっ♪…次はトップニュースをお伝えします!』
ー雨降るのか…夜はアイツが予約した店に行くって言ってたのになー
タバコの灰をトンッと灰皿へ落とす。
特に観る番組も無くてそのままにしていると
CM明けのニュース報道に俺の目は釘付けとなった。
『ここからは今日のトップニュースです!今月、日本に来日されたカナダ出身の絶世の美男、Eli Dawnさんが遂に日本での活動を発表致しましたっ!!』
え……??
エ……リ……??
『いや〜、遂にですねぇ高橋さんっ!高橋キャスターはもうずっとこのEli Dawnさんのファンだったとか…もう楽しみで仕方ないでしょう!?』
『はいっっ!!!今や世界で最も美しいとされるトップクラスの人気モデル、通称〝エリ様〟ですからねっ!!もう今後のエリ様から更に目が離せませんっ』
な…んで…アイツの写真がテレビになんか…
『私は気づかなかったけど、なんとこのエリ様!!実は日本のクォーターらしいじゃないですか…!!しかも親日家!!…なんでもエリ様のおじいさんが日本人だって聞きましたけど?』
『そうなんですっっ!!羽鳥さんも気づきませんでしたよね!?私も全然分かりませんでしたっ!』
ーどうして…
ぼんやりと頭の遠くでキャスターの会話が聞こえてくる。
次々と出てくる俺の知らないエリの写真は
それはもう世界を誘惑するような、官能的過ぎるほど過激で妖艶で…
でもそこから俺は、どうしても目を離すことが出来なくて…
『それにこのエリ様!!!日本での活動を開始とともに、新たに芸名を加えられたそうなんですっ!!』
『おお!!!あれですね、モデル界でトップを取り…更には今後この日本で俳優活動をされる為にとか…?』
『そうなんですっっ!!ファンの皆様はメモ必須!!エリ様の新しい芸名…それがこちらっ!』
「…………え」
タバコの灰がポトッと、床に落ちる。
『〝東雲 エリ〟!!!皆さん、来月から始まるドラマ…それに新作映画も、この名前で活動開始ということで…もう私…嬉しくて嬉しくて涙が出てきましたっ!』
『ほんとうに高橋キャスターは彼の大ファンなんですね』
『はいっ!!!おはセブンでは、今後もエリ様の活動を随時お知らせしていきたいと思っておりますっ!…では次のニュースです…昨夜横須賀市で火事がありました…』
「どう…してアイツが…」
〝ワークパートナーは恋人じゃない、ただの仕事仲間って意味〟
「どうして…」
そう言ったお前の仕事ってのは…この事だったのか…?
じゃあなんで…
なんで俺に嘘を付いた…?
俺だけじゃない、秀吉にも…言ってたじゃねぇかよ
『日本にはね、留学で来てるんだ』
「……」
ー嘘…だったんだ…そう言ったのは
でも、なんでそんなつまらねぇ嘘なんか…
「…そうだ、そうだよ」
ズキズキと胸が痛く、苦しくなってくる。
別に大した嘘じゃねぇんだ。
だからこんなの気にしなくていい。アイツに後で聞いてみたら…いや、やっぱり大した嘘か。モデル界のトップとかどうとか言ってたし…。
それに俺には知られたくなかった理由でもあるのかもしれない…違う、知られたく無い事にショックを受けているんじゃない。
もちろんそれにもショックだけど、そんなもんの前に、俺が一番ショックなのは…
「東雲エリ………か」
燃え尽きた煙の立たないタバコを指に挟んだまま、一口吸い込む。
俺は何ひとつエリの事を知らずにいるんだと、今更気づいたことが一番辛いんだー
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