アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
いちごのキャンディー
-
「ねぇ愛ちゃん」
クレープ屋のテラスを離れ、ブラブラと園内を歩いているとエリの赤い口が開いて名前を呼ばれる。
「あ?なんだよ」
もうHoney&Mapleのライブは終わっているはずだ。そろそろ戻らねえとアランとケイトが心配するだろう。
「………」
隣にいるエリの方を見ると呼んできたくせに一点を見つめていて俺の方を向いていない。
「……どした?」
首を傾げ見上げるとエリが急に「間違えた、愛ちゃんこっち」と俺の腕を引っ張って反対方向へと歩き出した。
「おいっ、急に引っ張ん……痛っ!!!」
「あっ……愛ちゃん!!ごめん、ごめんね!?痛かったよね!?」
「あー…くっそ…力強ぇんだよバカエリが」
「ごめんね…でも…」
口籠る焦ったエリの顔を見上げると、何かを隠すように俺の前にしゃがみ込んでくる。
「あぁ??なんだよさっきから」
そう言うとフッと俺の方を向いて遠くにあるソレを指さしてエリが微笑み出した。
「ふふふ…ごめんね。あれ、せっかくだし二人で行きたいなと思って」
「〝あれ〟…?」
指を伝うようにその先にある建物を見渡す。俺たちがいる此処からは反対方向にそびえ立つ〝その建物〟は異様な空気を放って佇んでいた。
「……なぁ、お前それマジで言ってんの?」
「え?うん、せっかくだし…ね?」
グレーの瞳が優しく俺に笑いかける。だがその目は今の俺にとって優しさなんてものの感情は捉えられない。
「一応聞くが…それ、分かってて言ってんだろうな」
「ん??もちろんだよ、俺意外と好きなんだよねお化け屋敷」
「テメェ……正気かそれ」
完全に圧の目になっているエリに何度か問いかけるが「涼しくて楽しいよ」「オバケなんてニセモノだから大丈夫大丈夫〜」とただニコニコ笑いかけてくる。
「ね、愛ちゃん?」
「………マジでバカじゃねぇのお前」
ー脅かされるの分かっててわざわざお化け屋敷とかに行くとか…マジで気が知れねぇ…
スッと出されたエリの手を払いのけ、お化け屋敷とは別の方向を歩き出そうとする。俺はお化け屋敷とかオバケとか霊とかもうとにかく、そういう類のものが大の苦手…いや、心の底から大ッッッキライだ。
「絶対やだ。あんなもん、ただくだらなくて心臓に悪いだけだし。つうかアランとケイトが心配するだろ」
ツカツカと先を歩くが背後にエリの気配がしない。少し進んでクルッと振り向くとグレーの瞳が逆光で眩しく光っていた。
「エリ………?」
逆光に映し出されたエリは眩しくて、でもしっかりと俺の方を見ているのが分かって…
「………どうしたんだよ」
園内に流れる賑やかな曲にかき消されるほどの小さな声でそう問いかける。離れたエリとの間を人が行き交い、所々顔が見えなくなる。
「……………エ」
「俺はもういいの…?」
名を呼ぼうとしたその時、エリの優しくて少し高い声が真っ直ぐ俺に投げかけてきた。
「………あ?」
ーそれは……どういう…
俺の事を見つめてくるエリは、逆光の所為だか何故だか透き通って見える。
「………エリ?」
今にも消えてしまいそうなエリを見るのはこれが二度目だ。まるで壊れてしまいそうな、儚くそこにいるのに消えてしまいそうな……寂しさと悲しさが纏って余計美しく見えてしまう…。
「あ……ちょっ……!!」
無理やり腕を引かれエリが指差した〝あの建物〟へと連れて行かれてしまう。
「おいっ…離…」
「ごめんね愛ちゃん」
何故か謝ることしかしないエリに、一瞬だけさっき隠すようにしていた方向へ振り返る。
「……」
そこには子どもが群がっている風船を持ったウサギの着ぐるみがいるだけで……
ーコイツは俺に何を隠そうとしていたんだ?
引かれるまま、徐々に遠かったその建物が近づいてくる。何度も振りほどこうとしても力は敵わないまま……
「おいっエリ!俺は絶対やだからなお化け屋敷なんか!!!」
「ごめん…ごめんね」
「はあ!?ちょ、お前話聞いてんのかよ!?だから俺は絶対行かねえって言」
「愛ちゃん……本当にごめん」
「…………」
俺の方を向かずに
ただコイツは謝るばかりで……
「あーもう……なんなんだよ」
ーこれも〝最後の思い出〟として
「どうなっても知らねぇからな」
「うん……ふふふ…大丈夫、俺が愛ちゃんをしっかり守るからね」
「……好きにしろよ」
俺はエリと、日本一のお化け屋敷〝戦慄大迷宮病棟〟へ足を踏み入れることになったー
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 92