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起動・最重要記憶の欠落を解消
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「カナトだと?コード以外に固有名詞を持つアンドロイドなんて聞いたことねぇぞ。」
男はカナトの襟を離しはしたが、その視線はまだ険しいままだった。
「他の子の事は知りません。で、俺は名乗りましたが、あなたは何というのですか。その様子だと、軍人さんとお見受けしますが。」
「…加藤だ。確かに俺は軍人だが、それがどうかしたか。」
「いえ、何も。俺明日は早く出ないと行けないんです。休ませて貰えませんか。」
カナトは男に背を向けた。
「…国家の財産である殺戮兵器が何故こんな田舎町にいる。」
男の厳しい声は気にせず、カナトはベッドに腰掛けた。
「そんなふうに言われる筋合いはありません。他の子の事は知りませんが、俺は国に命令されて戦場に行ったことはないです。このコードも作られた時に刻まれたのは覚えていますが、コードで製作者に呼ばれたことは、一度だってありませんよ。」
「そうか。アンドロイドにもそんな奴がいるのか。確かにお前の話し方や仕草は随分人間に近いな。製作者の技術の賜物か。」
戦場に行ったことはないと聞いた加藤は威圧的だった雰囲気を解くと、ベッドに横になった。それを見てカナトは少し言いにくそうにぽつりと呟いた。
「…あの。」
「なんだ。」
「さっき、アンドロイドの名門って。」
「ああ。悠紀のことか。アンドロイドを作る名家は幾つかあるが、その中でも戦闘型モデル製作において悠紀家の技術は随一だと聞く。本家は丁度この町から東に向かった所にあるらしいが。それがどうかしたのか。」
当たり前の社会常識をいうように答える加藤だが、カナトはたった今初めて知ったような表情をした。
「そうですか。俺を作ってくれた人の名前。悠紀純一(ゆうきじゅんいち)っていうんです。純一はそのアンドロイドの名門家の人だったんですね。」
自分の製作者の身元が分かって少し嬉しそうなカナトとは対照的に加藤はバッと上半身をベッドから起こして絶句していた。
「何だと!…悠紀純一、そう言ったのか。」
「えっと、はい。俺の製作者の名前として記憶していますが。」
そこまで動揺されるとは思わなかったカナトは目が点になる。
「その悠紀純一っていうのは、五年前、二十歳の若さでアンドロイドの戦闘型モデルFA・フィアシリーズをデザイン、設計した優秀な研究者だ。そして、名門悠紀の当主になった奴だ。今から一年と少し前にな。」
加藤はそこまで言って目頭を押さえると、カナトに視線を戻した。
「…アンドロイドを知っている人の中に悠紀純一の名を知らない奴はいないぞ。俺はお前の一般常識を疑いたい。」
カナトは寂しそうに微笑する。
「すみません。俺、記憶領域に負担がかかったか、原因は定かではありませんが、記憶処理エラーを起こしていて、一年前から昔の記憶がないんです。完成時に入力された基本情報は残っていますが、その後に自力で記憶したモノは断片的にしか…思い出せない。」
加藤は起こしていた上半身を再びベッドに倒した。
「それならさっさとメンテナンスしてもらえ。アンドロイドは稀に、週一でメンテナンスをしないとプログラムが暴走するポンコツもいるからな。」
「そうですね。情報提供、感謝します。」
「おう。」
カナトはようやくベッドに横になると毛布を首までかけて目を閉じた。
…メンテナンスか。そういえば、最後に純一にメンテして貰ったのいつかな。それからもう、一年は経っているはずなのか。流石にメンテしないと、肉体のダメージがこれより酷くなるのは避けたいし。でも、本当に信じて体もプログラムも預けられるのは、お前しかいないよ。…純一。
あぁ、でもでもせっかく俺のために作ってくれた腕輪も無くして、合わせる顔がないし。やっぱり、あの盗賊どもから奪い返さなきゃ。
…そうか。もしかして、俺が東に旅をしていた理由っていうのは、純一を探すことなのか。それなら説明もつく。
…この町でぶっ倒れて良かったな。
頭の中で百面相するカナトに自らの制御端末の警告が聞こえた。
___記憶領域に異常・記憶処理エラー発生・早期メンテナンスを推奨・後頭部、諸関節に異常・過度な戦闘を避けることを推奨
分かってるよ。でも、ごめん。俺、純一以外の研究者にメンテナンスして欲しくないんだ。信用できないから。システム終了から再起動の間に他領域の管理と肉体をできる限り再生してくれ。
__承認・システムを終了・本体の意思を尊重・肉体の再生を開始
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