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十枚の金貨
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カナトの修復完了より一日前
ニューカントリータウン滞在三日目
悠紀は必要な物をまとめて、ニューカントリータウンを出発していた。
朝方のまだ薄暗い空を見て、一時間程前に自分が残した手紙の事を思い出す。
「んー。やっぱり俺って補佐使いが荒いのか…」
悠紀は今朝起きた時にまだ隣で眠っていた日野間に宛てて、置き手紙を残した。
"俺が連絡したら、残りの荷物全部持って車で来い。場所はその時に知らせる"
要は面倒な事を大方日野間に押し付けたのだ。
普段は自分の行い、その大半を善行とは思わず、また反省もしない悠紀も、今回は流石にやり過ぎたか、と反省の心が芽生える程度には、日野間の事を気遣っていた。
しかし、それが言動に反映される事は殆どない。
これでカナトが無事なら謝ってやってもいいかな。
少なくとも、まだ腕輪があるからカナトは死んでいないはず、なんだけどな。
…意外と絶望的だったりして。
拷問されていませんように…!
足早に山の方へ行く悠紀。
純銀の腕輪の波長を感知する、細いリボンの様な特殊な魔術道具を指に巻き付け、そのリボンの切れ先の動きを見て、緩やかな傾斜を登っていく。
しばらくすると何人か人が集まる所が見えた。
近くには、地下へと繋がっているであろう階段が見える。
人々の中には、スーツの男性が三人、他に男女様々な人がいた。後者はやはり服装から富豪の様であった。
会場はあそこか。
悠紀もその人々に紛れて地下に向かおうとする。
「おい待て。」
だが、スーツを着た男は悠紀を呼び止めた。
「ここは貴様の様な者が来る所ではない。金のない奴はさっさと帰れ。」
どうやらスーツ男は、赤黒い外套を着た悠紀のみすぼらしい姿に、貧乏人だと勘違いをしているようだった。
悠紀は自分の着ていた外套のフードをとる。
「あの、父にこれを渡せと言われて…」
悠紀はいつもとは全く正反対の、何も知らない幼稚な子供を演じた。
幸い、悠紀は中性的な顔立ちであり、身長も大の大人と比べれば、高い方ではない。
胸に何か詰め物を入れれば、女性にも見える程だった。
目の前の怪しい子供が差し出す皮巾着を受け取ったスーツ男はその中身を確認した。
中には帝国で一番流通量が少なく、最も高価な金貨が十枚程度入っていた。
「…!?」
ただの若造がこんな物を持っているはずは無く、今までに来た富豪達も所持していないだろう物を、一スタッフに過ぎない自分に簡単に渡せる悠紀をスーツ男は驚愕の眼差しで見た。
様子のおかしい仲間を見て、他の二人のスーツ男も近くに来た。
そして同様に大金を見て驚く。
「ここに、入れてもらえないでしょうか…」
不安そうな目でスーツ男を見つめる悠紀。
言葉は確かに本心だが、仕草は全て演技だった。
「あ、ああ。どうぞ…?」
この男はオークションのスタッフの様だが、同時に略奪を生業にしている賊の一人でもあった。
獲物が小規模な村で、こつこつと盗みをはたらく男にとって、たった今貰った巾着の中の金は、一生死ぬ気で働いても決して手に入らない物だった。
そこで男は考えた。
このまま、オークションを終えても、儲けた金は仲間と山分け。
最も取り分が多いのは頭である兼岡だ。
おそらく、この金も知られれば差し出すハメになる。
いくら大金と言えど、山分けすれば自分の分け前は激減する。
だが、これを持ち逃げしてしまえば、どうだろうか。
おそらく、いや確実に一生食うには困らない。
遊んで暮らせるだろう。
そんな野心を悠紀は見抜いていた。
「あの、このオークションのスタッフ皆で使って欲しいのです。父からの言いつけなので、お願いします。」
「え、?あ、ああ。皆に言っておくよ。」
そう言った男の横を通って、悠紀は地下への階段を降った。
まあ、持ち逃げしたいよね。
俺だってそうするし。
でも、仲間に目をつけられて、どうするのかな。
できれば、全員の手に渡って欲しいけど、そんな上手くいく訳ないか。
三人で持ち逃げかな。
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