アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
再会
-
大学を卒業した俺は、そこそこ大手の商社に営業として就職した。
「道場(みちば)、入院した田端の代わりに今度からサカモト商事も担当してくれるか」
「サカモト商事、ですか。わかりました」
「よろしく。向こうの担当さんには連絡しておくから午後にでも挨拶に行ってくれ」
上司の、頼み事の名を借りた命令を受けた俺は昼食後、冷房の効いた会社を出て、8月の太陽を浴びながらサカモト商事に向かった。
「久瀬(くぜ)は只今参りますので少々お待ちください」
「ありがとうございます」
サカモト商事の応接室に通された俺は、新しく取引相手になる久瀬さんを待った。
久瀬---兄ちゃんと同じ苗字だな。
あの結婚式から3年。
兄ちゃんの父親がドイツに転勤になったのを機に連絡手段が途絶え、兄ちゃんが今どうしてるのかも知らない。
3年も経てば子どもなんかも生まれたんだろうか。
兄ちゃんとあの女の人の子どもなら相当可愛いだろうと思う。
この3年、何度も何度も会いたいと思った。声を聞きたいと思った。顔を見たいと思った。
距離が近すぎたせいでラインすら交換していなかったことを悔やんだ。
今、どうしているんだろう---。
そんなことを考えていると、ノックされた扉が開いた。
「失礼します。お待たせして申し訳ありま、--」
そして入ってきた人物と、中途半端に途切れた言葉に、お辞儀しかけた腰を止めた。
「---ぇ…兄ちゃん…?」
「--ユキ?貴之(たかゆき)…?」
「っぁ…久しぶり、だね」
同じ苗字なのだと思ってはいたが、まさか本当に兄ちゃんだったなんて---。
「嬉、しい…」
「…ユキ?」
思わず漏れ出た本音。
訝しむような声に、ハッとする。
「あ、ごめん…なんでもない…」
「…ユキ、もう社会人なんだな」
「うん、あ、今日はあの、前任の田端さんが急に入院しちゃって、それで…」
「OHKAWAの新しい担当、ユキだったんだな。これからよろしく。…よければ今夜、飲みに行かないか?」
「え…」
「あー…予定ある、か」
「なっ、ない!!全然暇!!」
兄ちゃんに誘われたのが、信じられなかっただけ。
そう言えば兄ちゃんは、よかった。と綺麗に笑った。
「じゃあ、これ俺の番号。俺は終わりは大体6時半くらいだけど、ユキは?」
「あ、うん。俺もそのくらい」
「そか。じゃあ終わったら連絡くれるか?迎えに行く」
「え?いいよ、俺がこっち来るよ」
「いいって。暑いから中で待ってろよ」
そう言って話を終わらせた兄ちゃんは、前より少し痩せていた気がした。
「では、これからよろしくお願い致します」
「こちらこそ。---じゃあ、今夜」
「…うん。--失礼します」
会社に戻った俺が驚異的なスピードで仕事を終えたのは言うまでもない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 5