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Ⅱ
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呆然としながら、俺は翌日から高校に向かった。泣いたせいで目が少し腫れているような気がする。
「よっ、昨日どうだったんだよ?呼び出されたんだろ?」
友達が俺に聞いて来たけれど、俺は「ああ、うん」と曖昧な返事を返して席に着いた。
織部静が俺の運命の相手だなんて、きっと誰も信じないだろう。あの人はもう死んでいるのだから。
そんな俺の様子に、周りはだんだんと距離を取った。今日は俺に近付けないと思ったらしい。
それでよかった。あの人の声が耳から離れない。テレビとは違う、あの人の本当の声が。
あの人の声に、しばらく酔っていたかった。
「おーい。起きろー、志賀ぁー」
「……うるさいな……。何だよ、一木(いちき)」
一木和也(いちきかずや)。アルファの親友が、俺に声をかけてきた。見て分かんねえのかよ……。
そう思いながら顔を上げると、一木はニッコリと笑っていた。
「わー、珍しく凹んでんなー。バイトどうすんの?」
「笑って言うなよ……。何か腹立つ。今日はバイト休む」
「マジか。俺連絡しとこうか?」
「お前は忘れるだろうからパス」
アルファのくせにどこか抜けているコイツは、あの検査まで絶対ベータだと思われていた。
なのに蓋を開ければアルファだ。コイツのどこがアルファだよ、絶対にない。
一時間目開始のチャイムが鳴る。慌てて一木が席に戻っていった。
「はい、席につけー。日直、号令」
先生の声が、遠くに聞こえる。今日は授業すらも聞こえなさそうだ。
黒板を見つめているはずの俺の脳裏には、あの人の笑う顔、真剣に俺を愛しているというあの顔が映っていた。
あの人を忘れる事は、出来なかった。これが運命か、と自嘲する。
俺に二度と運命は現れない。
運命は一度きりだからこそ、「運命」なのだから。
「君の名前は?」
志賀雪人(しが ゆきと)だよ。
脳内で繰り返される昨日のあの人の質問に、俺も心の中で返す。
「学校は楽しい?」
あんたのいない毎日は、退屈だ。
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