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Ⅴ
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「で?僕が誑かされているとかいうお前の心底くだらない疑いは晴れたか?僕は亡くなった兄さんの代わりに雪人を支えているだけだ」
「疑ってたのは私じゃないんだけどね……。まあ薫を見て怯えているようだし、少なくとも薫に恋愛感情持ってる顔じゃないからね」
「よく言う」
何だか頭が揺れてきた。秋とは言え、まだ暑いからか。そして目の前のこの空気が俺には耐えられなかったからか。あまりの気持ち悪さにその場に座り込んだ。
「雪人!?」
薫がすぐに気付いて俺の背中を撫でた。きっとあんたのせいでストレスが溜まったんだ。
そう思っても気持ち悪くて一言も口を開けそうになかった。
「ありゃ。雪人くん、大丈夫?ヒート、じゃないよね」
「顔色が悪い。すぐに帰る、邪魔したな」
「ばーか。その状態の雪人くんを車に乗せたらもっと具合悪くなるでしょうが。立てる?入って」
俺は薫に支えられて椎名さんの家の中に入った。長いソファに横にならせてもらってやっと息が吐けた。
「てか、この制服ちょっと遠いところのでしょ。雪人くん、知らない所まで連れてこられて可哀想」
「お前が会いたいとか言わなければ連れてこなかった」
「私のせいばかりじゃないでしょ」
何だか、二人の声が聞きたくなくて耳を押さえる。早く織部の顔が見たい。
今頃俺はディスクを再生していた筈なのに。織部の顔が見たい、あんたの笑顔で安心したい。
仲の悪い運命の話は聞いた事がある。だけど、俺には関係なかったはずだった。
「雪人、震えてるよ」
薫の声が近くで聞こえる。今は薫の声を聴きたくなかった。
織部の声が、聴きたい。
「薫、雪人くんからもう少し離れた方がいいね」
「お前に言われる筋合いはない」
「お前は私の「運命」であって、雪人くんの「運命」ではないんだよ。その子の運命は亡くなったお兄さんだけだ」
椎名さんが俺の手に触れた。椎名さんの手は暖かかった。織部ではないけれど、どこか安心した。
「こんなに手が冷えて。怖かったんだね、悪い事をしてしまった。私もオメガなのだから、君の気持ちは分かるつもりだよ」
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