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Ⅵ
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薫の車で本を開く。薫の話より、小説の続きが気になっていた。登場人物は、幸せになれただろうか。すれ違いはどうなったんだろう。
「雪人、その本面白い?」
「ん」
薫の問いにも上の空で、俺は本を読んでいた。完全に本の世界に引き込まれ、感情移入していた。
いきなり目の前が明るくなる。薫が小説を持っていた。
「ちょ、薫!返せよ!」
「僕の話を上の空で聞くほど、この小説面白いの?家の前まで着いたのにも気付かないほど?」
薫に言われて初めて、もう家の前に着いている事に気付いた。この時間帯は渋滞しているから着くまでに結構時間がかかるのに。
「き、づかなかった……」
「だろうね、熱心に読んでたし。車酔いするよ?」
「酔ったことねえし」
そう言うと、薫は面白そうに俺を見ていた。どうやら薫は車酔いしやすいらしい。
小説を返さず、薫は本を見た。そして表情が変わった。
「この、本は……」
「?」
表紙を確かめるように見ている薫は、何だか妙な顔をしていた。
悲しそうな、不機嫌そうな。よく分からない顔を。
「その本がどうかしたのか?」
「…………いや」
薫は間をおいて答えた後、しおりを挟んでパタンと閉じた本を俺に返さず後部座席に投げた。
それから車を発進させた。
「ちょ、どこに、家の前だっただろ!」
「智里が君に会いたいって言ってたんだよ。今思い出した」
「椎名さんが?」
俺は椎名さんの所へ行くことに恐怖を覚えていた。椎名さんと薫の不仲を見ていれば、そうなってもおかしくないと思う。
椎名さんは好きだが、あの雰囲気に耐えられるとは思えなかった。
「……今度じゃ、駄目か?」
「駄目。今日って念を押されたから」
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